愛

善き人のためのソナタの愛のネタバレレビュー・内容・結末

善き人のためのソナタ(2006年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

1983年の東ドイツ。社会主義国家のもとで、Stasi シュタージという国家保安省が反逆者を監視し取り締まりをしていた。そのうちの1人である国家に忠実で冷酷なゲルトヴィースラーが音楽や文化、愛などに触れる事で人間らしく変わり、自分にとっての正義を貫く話。

全体を通してまず思ったのは、戦争の時代から何も変わることの無いイデオロギーの操作は暴力や戦争よりも怖いものなのでは無いかという事。結局は思想そのものが戦争を導いているものだし。政府の人間が部屋中に盗聴器が仕掛けれ24時間記録されている事、家族や配偶者、友達、学校の先生、身近な人が実際に情報を提供していたという事実、ほんの40年も前に当たり前に起こっていた事を考えただけで恐ろしい。

ヴィーズラーがどの様に変わっていったか、なぜ変わっていったのかが大きな物語の主題であると思う。冒頭におけるシーンにもあるようにヴィースラーの尋問や記録において人間の情のようなものは一切なく、反逆者において容赦ない。このような人間がドライマンとクリスタの何をキッカケにして変わったのか、1つは愛であり、それがもたらす人間の温もりである。(性欲求は手段にしか過ぎないのと、結局は彼が求めていたものとは違った気がする) 他には芸術的感覚。監視していた男性は作家、ピアノを弾く。女性は舞台女優である。音楽や文学とはかけ離れた生活をしていたヴィーズラーそれに触れ始めたことで人間らしさというものが芽生えたのかもしれない。特にピアノの演奏のシーン。最後に夢、キャリアである。男女2人とも作家に、女優に、なる大きな夢を持ち、そのために日々生きている。
これら全てに共通して言えるのは、ヴィーズラーが持っていなかったもの。それを求めるうちに彼自身の表情に変化が訪れ、最後には全く違う人間として生まれ変わっているかのようだと思った。
それと同じように自由も関係があると思う。国民が持つことが出来ない権利、プライバシーと言論の自由が国家によって監視され、コントロールされている事について、疑問を持ち始めた事も大きく関わるだろう。
変わった瞬間としては、バーでヴィーズラーが夢のために国の偉い奴の愛人でありその関係を断てない女優に会い、これ以上会わないように説得するシーンで、彼女がyou’re good man と言ったところ、even thought he is not good man. ね。
そこから反社会主義的思想を持つ父の息子に会った時も、その名前を聞かなかった。最終的に監視していた男が東ドイツでどれだけ自殺者がいることを記事に書き、西ドイツの出版社に出した際もただの演劇を作成していると嘘を報告書に書き、終いにはその証拠を隠したのだ。

友人の自殺をキッカケに起きたドライマンの変化も映画を通して見て取れる。
愛