クシーくん

捜索者のクシーくんのレビュー・感想・評価

捜索者(1956年製作の映画)
5.0
ジョン・ウェインは193㎝と図体のデカい男だが、これほど彼を大きく恐ろしく且つ魅力的に見せた作品はないだろうと思う。巨大な怒りと憎しみを描いておきながら実に重厚で、悲壮で美しい映画。

モニュメントバレーの雄渾無比な映像美やそこに起因するアメリカの憧憬についても考察してみたいが、頭が悪いので上手く纏まらない。本作を傑作たらしめる要因なのは間違いないが、ここではテーマについてのみ書き、他の点については今度観た際にゆっくり考えよう。

これを単にインディアン差別と偏見に満ちた酷い映画だと解するのは余りにも安易で短絡的だ。人間は首尾一貫性のない生物であり、それが短所だが長所でもあるのだ。
ただしフォードの意図は理解出来るが、この余りにも直向きというか直球過ぎる表現は現代では受け入れ難いのも頷けるし、はっきり受容出来ない文脈が事実含まれているのも確か。恐らくその溝はいずれ更に深まり、かつてのコモンセンスはやがて理解不能な異形の概念へと移行していくのだろう。
よしんば理解されたとしても"so what?"で終わってしまいそうだ。大概の場合、現代人は常にリアリストで無関心だ。それは生きる上で不可欠な資質でもある。しかし、綺麗でばかりいられない、怒りと憎しみに呑まれた人間を描いた本作をこそ観るべきだ。ラストシーンの美しさはフォードの人間と失われゆく者への確かな愛を感じる。

これ以上駄文を連ねてもこの映画について到底何かを伝え得るとは思えないのでやめる。素晴らしい作品。
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