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歩いても 歩いてものiのレビュー・感想・評価

歩いても 歩いても(2007年製作の映画)
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是枝さんの作品はどこまでが台詞でどこからがアドリブなのかが分からない。とても自然。それは役者が台詞を噛み砕き、自分のものとして吐き出しているのか、それとも脚本段階で自然になるように書かれているのか。希林さん然り、YOUさん然り、当て書きならその可能性もあるか。でも恐らくそのどちらもだろう。

恭平(原田芳雄)「この家は俺が働いて建てたんだぞ。なのにお前、なんでおばあちゃん家なんだ」

ちなみ(YOU)「ちいさっ」

笑いどころです!という感じが是枝さんらしからぬ?気がしたけど笑った。

ちなみ「いらないって。ねえ、天ぷらの話以外参加する気ないわ○△□」

とし子(樹木希林)「ほっとけばいいわよ、ほっとけば。お腹空いたら出てくる。あんたんとこのカラスと一緒よ」

ちなみ「うち火曜と木曜だけ」

このくだりの台詞は秀逸。こんなものを書けてしまうなんて文才は怖い。

それと是枝組は本当に画が綺麗。よくロングストロークの坂が出てくるけれど、街やセットを含め制作部は「監督は坂が好きだから〜」のような動きでロケハンをするのか。それとも監督がこのあたりが良い的な提案をしてくるのか。それともロケハン前に具体的なイメージを伝えてくるのか。私の記憶では、『万引き家族』では劇中に出てくる民家を探してきた制作部に感謝していたけれど、そんなことを監督に、しかもメディアの前で言われたら嬉しいだろうな。

それにしても是枝組の作品を見ていると知的好奇心を刺激される。カット割りでも、生きている芝居でも。是枝さんの台詞を現場で変えていく様子や長回し、演出を生で見てみたい。現場見学してみたい。是枝さんだけでなく、是枝組を。

近藤さんはまた別として、山崎さんが撮る画も、瀧本さんが撮る画も好きだな。是枝作品という感じ。瀧本さんはスチールのカメラマンだから、ピントマン等助手は大変なのだろうか。映画初作品はそうだったとしても今はそんなことないか。瀧本さんご自身も「映画という魔力に取り憑かれ始めている」的なニュアンスのお話をされていたし。

美術、衣装も恐ろしい程に自然。お墓前りから帰るシーンはアフレコなのだろうか。お向かいさんが救急車で運ばれるシーンだけなんか違和感を感じた。エキストラの付け方だけでなく、画的にも。照明なのか?知りたいな、色々なこと。ゴンチチ。

映画.comのインタビュー

――暗い画面に野菜を刻む音が入って映画が始まるし、見えない人の声も頻繁に入って、随分音にこだわっていますね。

「ほとんどが家の中で進んでいく話だから、画面に映っていない人の声や音をオフで絡めていくことで、空間的な広がりを出そうとチャレンジしたんです。カメラ前の芝居とオフの芝居を同時に録ったので、音声さんは大変だったと思います。でもその苦労のお陰でシーンが生きました。耳を働かせて聞いてもらう映画になったと思います」

上記のこと。観ていてとても感じた。

それと恭平の「子持ちやもめじゃ再婚も難しかったろう」後のカットバック?で、一方はフェードアウト、一方は会話、もう一方はスイカ割り。このカットは凄いなと。日常生活として自然な流れだし、その自然さを違和感なく演出できるのが凄い。通常、何かしら気になってしまう。特に奥の芝居。でもこのカットは恭平と良多(阿部寛)の会話に集中していて、恭平が庭の様子を気にしだすまで奥の芝居に目が向かなかった。そのくらい自然。鑑賞中に画のなかのもの、特に主となる話とは関係しないものをキョロキョロ見る癖のある集中力が欠如している私には珍しい体験だった。

ほぼ家のなか。時間は1日。特別なことも起きない、いわゆる日常。だけれどもドラマはたくさんある。このような映画が好きだ。

「死ぬまで喧嘩ばかりしていた母も父の後を追うように亡くなった」

内田裕也・樹木希林夫妻とは逆ではあるが、、、不思議なものですね。

希林さん、お会いしたかったです。
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