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鶴は翔んでゆく/戦争と貞操のzhenli13のレビュー・感想・評価

4.7
オープニングシーンの躍動感。鶴を見上げた次に鶴視点の超ロング俯瞰。これはすごい…と思ってたらその後もずーっと、仰角、俯瞰、広角、クローズアップ、移動、クレーン、コマ落ち、マッチカット、光と影、ありとあらゆるショットを撮るぞというエネルギーが最後まで満ち満ちている。ショットのためにカメラも物語も役者も存分に動き、ヴェロニカ役のタチアナ・サモイロワには狂気すら感じる。例のどうやって撮ったのかわからない奇跡のような、バスの座席を降りて人混みをかき分けるヴェロニカと戦車の列を追いながらクレーンが上がっていく長回しすらも、ものすごいショット群の一つに過ぎない。
平和だった頃にボリスが駆け上がった螺旋階段を、空襲で燃えさかる(セットとは思えない)なかヴェロニカが駆け上がる。あのシーンの衝撃よ。その螺旋階段はふたたび走馬灯として恐ろしいまでの多重露光で明滅する。

武田百合子『犬が星見た』で、百合子さんがハバロフスク行き汽車の老車掌に折り鶴をあげたら「むかし『鶴は翔んでゆく』という映画があってとてもよかった」と老車掌が話し、通訳を介して百合子さんが「日本では『戦争と貞操』という題名で公開されました。女優がとてもよかった」と応え老車掌は大変喜んだ、というエピソードがある。
百合子さんは映画をたくさん観ていて、『日日雑記』の中ではタルコフスキー『サクリファイス』を貶している。
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