kkkのk太郎

おもひでぽろぽろのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

おもひでぽろぽろ(1991年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

東京で暮らす27歳のOLタエ子。小学5年生の思い出と共に山形での田舎生活を過ごすうちに、大切なことを学んでゆく、というヒューマンドラマ・アニメ。

監督/脚本は『パンダコパンダ』シリーズや『火垂るの墓』の、伝説のアニメ監督高畑勲。
製作プロデューサーを務めたのは『となりのトトロ』『魔女の宅急便』の、高畑勲の盟友でもある天才・宮崎駿。

子供の頃、金曜ロードショーで放送されるジブリアニメは何よりの楽しみだった。
『天空の城ラピュタ』『紅の豚』『耳をすませば』『もののけ姫』…
ジブリのアニメは非現実の輝かしい空想世界へと連れて行ってくれる夢のパスポートだった。
しかし、そんな作品群の中でも「なんだこれ…?ジブリなのにおもしろくないぞ?」と少年時代の自分が首を傾げてしまうものがいくつかあった。
『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』そしてこの『おもひでぽろぽろ』である。

少年時代は高畑勲と宮崎駿の区別がついておらず、ただ「ジブリ」というアニメブランドがあるということでしか認識していなかった。
そのうち、ジブリでは2人の監督がアニメを作っているということをだんだんと知るようになり、「宮崎駿=超おもしろくてワクワクするアニメを作る人」「高畑勲=ジブリだけど面白くないアニメを作る人」という風に認識していくようになる。
この認識は現在まで続いており、意識的に高畑勲作品は鑑賞してこなかった。

少年時代『おもひでぽろぽろ』には何度も挑戦してきたはずだが、全く内容を覚えていなかった。
覚えていたのは「パイナップル」「生理」「貧乏な男の子」くらい。もしかしたら最初から最後まで鑑賞したのは今回が初めてかも。
それくらい子供の頃の自分にとって『おもひでぽろぽろ』は「ハズレ」だった。

あの頃の少年も、今やタエ子よりも年上になった。
タエ子と同じように、さなぎのような感覚でいる今こそ過去を振り返る時だと思い(…そんなに大袈裟なことじゃないけど💦)、本作を鑑賞してみた。

…最高だった。これほど胸を打つ作品だとは思いもしなかった。
高畑勲の凄さはもちろん知っていたのだが、改めて凄まじい監督だったのだと舌を巻いた。
誰が言ったのか忘れたが、「宮崎駿の後継者は現れるかもしれないが、高畑勲の後継者は現れない」というような言葉を聞いたことがある。
この作品を鑑賞して、高畑勲がいかに破天荒で唯一無二な監督か思い知った。

彼の持ち味は徹底的にリアリティを求めたアニメーションにある。
それはアニメの動きや美術という話に限ったことではない。真に迫ったキャラクター造形や、舞台となる土地のロケーションや文化的背景、歴史へのリサーチということにも及ぶ。
映画の制作にあたり行った紅花農業の研究は専門家ですら目を見張るレベルだったというし、NHKにも映像が残されていなかった『ひょっこりひょうたん島』についても、狂気的な執着心でリサーチし映画の中に落とし込んでいる。
もちろんこのように偏執的にリサーチを行えば、制作時間が延びるのも当たり前であり、本作の制作も遅れに遅れたらしい。
プロデューサーでもあった宮崎駿はあまりの遅さにブチ切れて怒鳴り散らしたらしく、ジブリの名プロデューサー鈴木敏夫曰く、「宮さんのあんな声は、後にも先にも聞いたことがありません。」というほどだったらしい。
しかし、このリサーチこそが映画のリアリティを引き出している。他のアニメーションでは決して味わえない、「これアニメでやる意味あるの?」感を感じることができる😆

高畑勲の強みは徹底的な調査によるリアリティだけではない。
圧倒的な情報整理力こそ、高畑勲作品の魅力である。
この作品でも、無駄な描写は一つとしてない。
前半はほとんどがタエ子の過去の描写になるが、ここで描かれるエピソードの一つ一つは後の展開の伏線となる。

印象的な何の天気が好きかと男の子に聞かれるシーン。
タエ子は曇りと答える。
でも、山形で農業をするタエ子が手を合わせるのは燦々と輝く朝日なんですよね。
また、トシオとの関係が一歩先に進むのは大雨の時。
山形に残る決断をするのは抜けるような青空。
物語が進む印象的なシーンは絶対に曇り空ではないんですよねぇ。
意図的に子供の頃好きだった曇り空を避けることで、タエ子が過去の自分とは違う自分へと成長していることを表している、といえるのではないかしら?

生理のエピソードは紅花作りと農家へ嫁ぎに行く事の隠喩となっているしね。
漫画家つげ義春の作品『紅い花』を思い出したあなたは立派なオタクです。

あと、高畑勲はサンプリングが上手いね!
当時流行の音楽だったり、流行りのテレビ番組だったりを適切な形で作品に引用してくる。
トシオが百姓の音楽だと言ってムジカーシュというグループの音楽をかけたり、エンディングソングに「ザ・ローズ」を持ってくるあたり、高畑勲の音楽の使い方や引用のセンスには脱帽。「愛は花 君はその種子」の歌詞が映画の内容を表しているんすよねぇ。

本作のターゲットは完全にタエ子と同世代の20〜30代。これからの人生どう歩むか、そのことに悩む世代を狙い撃ちしており、そりゃこれを子供が見ておもしろいと思うわけないわな、という感想。

タエ子のいう「サナギ」のような気持ちを抱いている人が見れば刺さること間違いなし!
トシオさんが立派すぎる…ジブリ史上一番イイ男に決定〜!顔も声も完全にギバちゃんだけど。
彼の農業にかける情熱を聞いていると何故か涙が、ぽろぽろ…
彼くらいなにかに打ち込みたいと思わせてくれます。
ちなみにこのトシオというキャラクターは鈴木敏夫のアイデアから生まれたキャラクターだからトシオという名前らしい。

過去を振り返ること、それは先に進むために必要なこと。
新しい何かを始めたくなる一作。
これこそまさに大人の為の映画だ!
kkkのk太郎

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