くりふ

千夜一夜物語のくりふのレビュー・感想・評価

千夜一夜物語(1969年製作の映画)
3.0
【虫プロのバベル】

虫プロの「アニメラマ」、いつかきちんとみたいと思っていたら、少し前にDVDレンタル始まった。

第一弾の本作は、アダルトアニメの力作ですね。作り手のパワーは強烈に伝わりますが…面白くはないです。

しがない水売りアルディンが、奴隷美女強奪に始まり、ひたすら男の欲望を満たし成り上がってゆく。しかしこれが痛快だったり羨ましかったりゼンゼンなくて、ただ空しい。

基本的に物欲なのね。愛さえ買えると思っているよう。ホリ○モンみたい。

そもそも、ヒロインを見初めるのが奴隷市場の商品としてで、顔と裸を見ただけで惚れこんじゃう。そこからあんま変化しないんだよね、この男。

動きも行き当たりばったり。ヒロイン強奪からしてドサクサ紛れ。ある魔法を手にすることが決定打になるがそれも偶然。演じる青島幸男の声がまた、指向性なくどっちつかず。

柱がこれだから、早いうちに飽きてしまう。未読だが、原作がそもそもこうなの?だいぶ創作入っているようだけど。

バベルの塔ぽい塔の建造、を入れたのはわかり易い象徴化でよかったけれど、このオチだと自業自得の当たりまえ。また物欲男だから、全てを失っても一瞬で、カラッと忘れられるのでしょう。このラストにも共感、皆無でした。

原作の、シェヘラザードが、命と引き換えに王の気を惹く物語を毎夜紡ぐ…という外郭を失くし、ただ男の欲望ばかりでつなぐからこう、とりとめなくなったのだと思う。シェヘラザードをヒロインにした方が、よりエロティックで緊迫する愛についての物語になった筈。音楽ではシェヘラザード、使っているのにね。

アルディンの人物像は、この後に登場するルパン三世の原型にも見えた。人から盗むことが当たり前で、盗めなくてもまあいいかっていうアバウトさ。そう結びつけると本作登場が70年代前夜って納得する。主題歌がルパンと同じチャーリー・コーセイってのは偶然だろうけど。

美術担当がやなせたかしさんというのは、アンパンマン以降に知るとちょっと驚き。彼にアルディンの顔イメージを聞かれた監督が、ノープランなので勝手にしてくれと思い『勝手にしやがれ』を思い出し、ベルモンド風と言ったらまんま描いてきたそうだ。…まるでアラビアンに見えないんですけど(笑)。

全般、あちらの文化への敬意はあまりないですね。海外では食習慣への配慮のなさが反発浴びたようです。

エロティックな描写、当時は斬新だったろうし、セックスを比喩的に見せる面白さもある。元々、漫画で手塚さんが描く、生物体のメタモルフォーゼは生々しいから、自身が原画を手掛けた所はすぐわかりますね。

しかし『うろつき童子』以降の成人アニメと比べてしまうとかなり牧歌的。逆に公開当時は早すぎたアニメだったのか、とも思う。

これを機に、小説として書かれた山本暎一監督の回想録「虫プロ興亡記」を読んでみたらへえー、の連続。元々、日本ヘラルドから劇場アニメを作ってほしい、大人向けにエロティックに…と依頼され始まったそうですね。

別に手塚さんが暴走したわけではなく、言い出しっぺは映画会社だった。この辺りの事情、とても面白い。アニメラマもヘラルドの命名だしね。

振り返って全般、文句ばかり言いたくなるし実際面白くないけれど、これは挑戦する映画として歴史にきちんと刻んでおくべきでしょう。色々と語りたくなる作品って、それだけ中身は豊かだ、とも言えるのだしね。

<2015.11.21記>
くりふ

くりふ