一人旅

エーゲ海の天使の一人旅のレビュー・感想・評価

エーゲ海の天使(1991年製作の映画)
4.0
第64回アカデミー賞外国語映画賞。
ガブリエレ・サルヴァトレス監督作。

二次大戦時、ギリシャの孤島に派遣された8人のイタリア兵が送る日常を描いたドラマ。

時代設定的には二次大戦真っ只中だし、主な登場人物も兵士たちだが、戦争の匂いをほとんど感じさせない異色の人間ドラマ。戦略上、何の価値もないギリシャの孤島での駐留を命じられた8人のイタリア兵が送る、戦争とは無縁ののほほんとした日常を、明るく開放的な島の風景とともに綴る。

8人のイタリア兵は本当に暇なご様子。美人の娼婦に一目惚れして狂乱的に愛する童貞兵士がいたり、故郷に帰りたい一心で島からの脱出を度々図るホームシック兵士、教会に依頼されフレスコ画製作に没頭する名ばかり隊長、丘に取り残され意味もなく海を監視し続けるお気楽兄弟兵士などなど。あまりにも暇すぎてみんなでサッカーしてみたかと思えば、漂着したトルコ人に装備一式持ち去られたり、意味もなくボーッと夕陽を眺めてみたり。だが、次第に気づかされる。これが人間本来の在り方なのだと。一見ふざけているようで、外部から遮断されたこの孤島には、戦争の狂気に未だ毒されていない人間らしい生き方が奇跡的に残されている。何も起きない、という自由、しあわせ。それを8人の兵士は偶然に体感する。外の世界が戦争の死と狂気に満ちているから、平和な内側に閉じ籠るという発想は、『まぼろしの市街戦』にも通じる部分がある。ストーリー的には戦争の匂いを感じさせないつくりの作品だが、逆の角度から戦争の異様性を眺めてもいる。お気楽に見えて、実は、戦争に対する批判がしっかり込められているのだ。

そして、美しい島の風景がとにかく印象的。太陽の光を浴びて煌めく海。白い砂浜。ギリシャらしい色調の建物。今回VHSでの鑑賞となったが、DVDで観たらきっともっと美しいはず。現時点では未DVD化なのでVHSで鑑賞するしかないのだが、もしDVDが発売されたらこの一級の風景美のためだけにもう一度鑑賞してもいい。それくらいの美しさ。
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