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時計じかけのオレンジのmaiのレビュー・感想・評価

時計じかけのオレンジ(1971年製作の映画)
4.7
こんなにも醜い傑作(名作)があったのか…という感想です。
不快なシーンは多々あるけれど、鑑賞後は凄く不思議な気持ちになります。不快感とも満足感とも違くて、何か考えさせられるわけではないし…強いて言うなら、すごい世界観の映画を見せつけられたなっていう在り来たりな感想しか出てこないです。
最後の「完全に治ったね」的なので映画を終える時点で、映画の描く異様な世界観に反して、相当な凝り性だしオシャレですよね。普通「治った」っていい意味で使われるはずで、本来ならば「自分の暴力性が完治した」って意味になるはずなんです。しかし、この映画の最後のその言葉は「完全に元の自分に戻った」という最悪な意味になってしまうんです。それがいきなり出てきたイン・アウト(ナッドサットはこういう時にも便利ですね。笑)のシーンに重ねられるんです…もう強烈なインパクトを最後に与えられてスッと映画が終わる、この圧倒的な鑑賞後の余韻。

最初はその若さ故では済まされないようなあまりの暴力的振る舞いが続く一方で、出てくる服装や小道具たちは近未来とも言い難いような凄く独創的でアーティスティックなものたちばかりで、そのアンバランスさが映画の世界を現実離れした異様な雰囲気に変えていて…正直のめり込むまでに時間がかかったのですが、アレックスの歯車が狂い出した時から(彼が捕まってしまうあたりからですね)グッと映画に引き込まれました。強制まばたき防止器具とか脳をいじくっちゃうあたりとかはSF感ありつつ、でも彼の因果応報加減は前半部分での悪行を見てる分「やっぱり更生しましたで片付く社会ではないよな」と、彼への報復を期待してたわけではないけれど、彼に「可哀想だ」と肩入れすることもなく結構達観して映画を観れた気がしました。それでも、アレックスがホームに舞い戻ってからの入浴〜食事までの「この先どうなるのか…」というハラハラ感は凄かったです。
そして、彼が本当に元のアレックスに戻ってしまうシーン…それまでは「更生したからと言って受け入れてもらえるわけではない」と悲観し思い悩むくらいまであったのに、それが打って変わって、頭空っぽなんじゃないかくらいの様に変貌してしまいます。加えて、総理大臣?に食事させてもらうシーン(ここ、彼のくちゃくちゃ食べがあまりにも気になりすぎて、会話の内容が全然頭に入ってこずで相当巻き戻して〜を繰り返しました。笑)は自分の将来すら考えてもないような、元のアレックスでした。
そこまでの暴力→更生→暴力…への回帰を見た後での「完全に治ったね」ですから、本当よく考えられたストーリーだなぁと思うし、それをこんな風に異様な世界観で表現できてしまうキューブリックってやっぱりすごいなぁと思いました。

カメラワークに関しては全くの無知なのでわからないけれど、暴力シーンは外野で俯瞰する形だし、かと思えば、冒頭はアレックスの超どアップから入るという強烈なインパクトで始まるし、入浴中に雨に唄えば?を歌い出すあたりの老人の驚き具合なんかは一歩間違えれば逆にコメディになりそうだし…効果的に行ってるのかどうかはわからないけれど、印象に強く残るシーンが多くありました。
そして欠かせないのが音楽とファッションです。
非現実的な舞台に、どぎつい色の髪色や服装をした人達が一般人ヅラしているっていう時点で異様なのですが、そこにクラシックが入ってくるんです。さらに、小物は性器や裸を強調したものばかりで悪趣味ですし。
ストーリーと演出と音楽…三者のアンバランスさが、この映画の独特の空気感を作り出していました。不快にならない違和感です。
あとはアレックス役の男性(見た目からして全然少年ではないんですよね、だから尚のこと良い意味での違和感がすごい)の目つきや仕草、喋り方やその顔立ち…どこを取っても何か引きつけられるものがありました。カリスマ性とは違うけれど、ある種の魅力…でしょうか。

結局のところ、神父が言ってきたように「自身の心底からの思いでなければ意味がない」的な言葉通りなのですが、それを通して何か教訓めいたことがあるわけでもなく(テーマは因果応報でもないでしょうし)、ある意味淡々と話が進んでいきます。それでもこの映画は名作と言われるだけの十二分な魅力があるし、胸糞シーンは多数あるけれど、それでもまた見たいと思わせる中毒性まであります。
キューブリックの作品は「2001年宇宙の旅」「シャイニング」に続いて3作目だけれど、「時計じかけのオレンジ」も前者2作同様に「キューブリックってやっぱり凄い」と思えるし、彼の他の作品も引き続き観ようと思います。

彼の、画面の見え方への凝り性具合って本当すごいなぁと今回も驚きました。
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