大映謹製の怪談調スリラー作品。わが国では1960年代まで同時代を舞台にしたホラー、スリラーは数少なく、時代劇怪談が主流である。本作も現代劇としつつも怪談基調であり、そこにアンリ=ジョルジュ・クルーゾー「悪魔のような女」(1955)から人間関係や主要なモティーフを借り受けたような体裁になっている。
優秀な外科医の川崎敬三が、裕福な院長の娘と結婚するために、すでに妊娠していた看護婦の万里昌代を亡き者にしようと画策するが…という筋書き。「悪魔のような女」の男女関係を逆にした格好だが、やはりベタつく怪談調や、やたらとナレーションを多用するモノローグ・シーン、今だと怒られそうなご都合主義のオチなど残念なところも多い。サスペンスの仕掛け方もぎこちない。
ただ、ところどころユニークな画角が見られるし、階段落ちのシーンは(明らかにマネキンだが)力が入っている。小心翼々とした川崎の演技なども見どころである。わが国の初期の本格ホラー、スリラー作品としては価値がある。