凪子

ヒポクラテスたちの凪子のネタバレレビュー・内容・結末

ヒポクラテスたち(1980年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

70年代を存分に感じるために鑑賞。わたしからしたら非日常となる医者の世界は、医者の卵である彼らにとっても未だ非日常なのだが、それを生涯日常としていかなければならないという決まった未来との葛藤。
堕胎までのシーンはが前半クローズアップされながらも、堕胎後があっさりしていてこの時代の堕胎に関する悲劇性が薄すぎて拍子抜けしてしまったが、この抑えた演出故に、後の新聞報道にパンチを与えている。
この時代の男女問わない女性への目線が正確に表されているかは分からないけれど、一種の「現実」として描かれているということを前提に、興味深かった。堕胎に関する興味の薄さと不妊に対する深刻さのコントラストが現代の若者の1人としては奇妙に映った。 
医者の加害性に対する懐疑は、始め中後で、愛作くんが解剖室に行く回想が度々出てくるところ、野田くんの入れ込んだ活動、大学病院の先生(手塚治虫先生も含めて)の言動の端々から提起される。

寮の皆で集まって寮会議や余り余った激情と肉体をぶつける喧嘩模様が、安保後の未だ若者たちが闘志を抱くことを忘れていない(許される)遠い世界を感じて、とても良かった。若者たちの苦悩、混乱、諦めることを知らない心が敏感に役者の体から映し出されていた。、。
日本の青年の黒い瞳はどこか濡れていて、そこににきびの痕があったり、汗の匂いがしたり、内側でくすぶる激情を感じた。
バカ真面目な大島くん、年長者の加藤、若き野口くんなど、どうして男の子が集まると可愛いのか‥。紅一点のみどりちゃんのように、この時代に女医を目指していた人たちはどれだけの強さを身に付けなければならなかったか、想像を絶する。産婦人科に行くのは女性相手というのもあるけれど、そこで初めて自分の居場所を見つけ(させられ)たという安心感もあるのではないか。。
しかし最後のみどりちゃんの自殺でエンドになるの、ドシビだなあ、、、。みどりちゃんの軽く演じてあしらって生きていく、ようなスタンスは、この世界でそうしないと生きていかれない女として強くあらなければいけないからであること、そしてその一方で生真面目である所からこれが導き出されてしまうのは、よくわかってしまう、、。
最後まで愛作くんは印象、フワフワしていて、個性豊かなキャラクターたちの中で一番ゆらゆらしていたのが逆に印象的だった。

医者モノ(といっていいのか?)を初めてみたために知識的な意味で新鮮だった。

あと映像の、各個人の面白さを伝えるワークや文字による説明も好き。
凪子

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