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PASSIONのarchのレビュー・感想・評価

PASSION(2008年製作の映画)
4.7
基本的に顔のアップを多用される作品で、近年の濱口作品とは違い、ドキュメンタリックな映像感は持ち込まれていない。
たどたどしいズームやパン、それらは在学中に撮影されたということもあって、中々に拙い。
最初のレストランでの会話シーン、アップすぎて人物の位置関係が分からない場面は濱口作品のイメージにはまずなかったシーンだ。逆に教室でのシーンは特にアップ故に異様な空間が演出されていて良かった。この場面はドキュメンタリックな最近の作風では出せない空気感だろう。

ショットで言えばラスト、工場の煙突から緩やかにパンしていく長回しショットが本当に凄い。光と影、遠近感の使い方が素晴らしく、このショットの日常から隔離されたような空気感、朝焼けのあの肌触りの再現度に驚愕してしまう。
このシーンが本作を傑作たらしめているまでいえる。


ストーリーとしてはいつも通りな多角形恋愛劇。友人同士、矢印がこんがらがって愛憎が渦巻いていて、腹の中ではあいつが嫌いコイツが嫌いとなっている。
でも実際そんなものな気がしている。どこか腹ん中を思うところがありつつ、それを飲み込んで交友関係を続けていく。
だからこそ、あの「真実ゲーム」には馬鹿馬鹿しさや突拍子のなさだけでなく、全てをさらけ出す口実となりうることへの憧れが滲むのだ。
あそこでの問答は、かなり自分の頭の中で自意識と戦っている風景に近い。誰かを見下してはいないか、自分の弱点やダメな所を会えて先出しすることで自覚していることをアピールし不問にしてもらおうとする、みたいな。
あの会話劇を映像化できてしまう、その恥じらいのなさ、フィクションにしてしまう実行力に何より感嘆してしまう。

この場面は、先の教室でのシーンに連なる暴力が連鎖的に発生することの実例にほかならない。誰かを好きになること、そこに妻や恋人、また恋敵なんかが絡まる瞬間、「暴力」は起こる。それは果てしなく連鎖していき、友人関係は破綻する。誰も許さないし許せない、あの教室での言葉が如何に理想論で現実に即していないかが分かるのだ。
しかし同時に本作はラストに「許し」も描くのだ。

相変わらずバランスを取ろうとするのが濱口作品だ。どちらかに振り切れた瞬間、観客は思考を辞めてしまうから、絶対に微睡みの中に観客をいさせ続けるのだ。そこに矜恃があると思う。
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