凛太朗

エレファント・マンの凛太朗のレビュー・感想・評価

エレファント・マン(1980年製作の映画)
4.3
19世紀のイギリスで、エレファント・マンと呼ばれた男ジョセフ・メリックの実話を元にしたデヴィッド・リンチ監督のヒューマンドラマ。

デヴィッド・リンチらしくないと言えばらしくないし、デヴィッド・リンチらしいと言えばらしいし作品ですけど、デヴィッド・リンチにしか作れない映画だと思うので、やはりデヴィッド・リンチらしいのか。

ほんで、『らしさ』って何や?と。
この映画で言うなら、人間らしさとは何やと。そんなことを考えさせられる映画かなと思いますが、私的には、見た目醜く中身が美しいメリックも、メリックを取り巻くトリーブス先生、バイツ、夜警をはじめとする各々の人たちの内外の美醜、その全てが、人間らしさなのかなと思います。
映画はメリックに感情移入するように作られているので、どうしてもメリック目線で見て善し悪しや美醜、善悪などを判断しがちになると思うのですが、この映画はエレファント・マンと呼ばれたメリックを中心に据えることで、全体を描いているんだと思います。
劇中の19世紀のロンドンは、産業革命の影響か、スモッグやガスが目立ちますが、単純にこの影響でメリックは奇病を患い醜い容姿となり、ロンドン中の階級問わず人々は、内面が薄汚くなってしまったととれないこともない。

善い人そうに見える人ですら、メリックを使って何かしらの利益を得ていたり、どこか表情がぎこちなかったりする。
それでも「やらない善よりやる偽善」で、メリックのためにしてることで、メリックが満足してることならそれでいいのかなと思う。

ラスト、メリックは人間としての尊厳を保ち、あのような形を取りましたが、その後の宇宙。
「決して…決して死ぬことはない。川は流れ、風は吹く。雲は流れ、心臓は鼓動を打つ。全ては永遠に続く。」
メリックの母の言葉であり、イギリスの詩人アルフレッド・テニスンによる詩ですが、この詩が穏やかで凄く美しく感じるのですが、これがメリックにとって救いであるのかどうか?ということになると、考えさせられるものがある。

何せデヴィッド・リンチにしか作れないとは言え、リンチとしては珍しい純粋に感動できる作品。
ジョン・ハート、アンソニー・ホプキンスの演技と、ジョン・モリスによる音楽も良い。
凛太朗

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