かたゆき

パンズ・ラビリンスのかたゆきのレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
5.0
内戦に揺れる1940年代のスペイン。
社会を支配する苛烈で不条理な男たちの暴力に押し潰されようとしている一人の無垢な少女、オフェリア。
それでも彼女には、誰にも負けない想像力という素晴らしい武器があった。
迷宮の奥深くで牧神パンと出会い、森の枯れかけた巨木の根元で彼女は醜い大蛙と対峙する。
そして、魔法のチョークで描かれた扉の向こうでは、世にもグロテスクな怪物と悪夢のような試練を経る。
目的は、永遠の世界でお姫様となること。
だが、オフェリアを取り巻く現実はあくまでも残酷だった……。

この妄想とも現実ともつかない、モダンでグロテスクな美しさに満ちた世界は、観れば観るほど、まるで何処までも続く深い迷宮へと迷い込むような、そんな気持ちに誘ってくれる。
男たちがつぐむ歴史の傲慢さに対抗する言葉として、女性は物語という言葉を編み出してきただろう。
そんな普遍的な事実がここにはあまりにも美しく、そして退廃的に描かれている。
素晴らしいとしか言いようがない。

惜しむらくは、第三の試練。
ここも素晴らしい幻想世界で描かれていれば、完璧な大傑作映画となり得たのに。
でもそんな不完全さも含めて、僕はこの映画が大好きだ。
最後、醜い暴力にその儚い命をも奪われながらも、美しい想像力だけは奪われなかったオフェリアのその切ない笑顔がいつまでも忘れられない。
かたゆき

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