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パンズ・ラビリンスのisknのレビュー・感想・評価

パンズ・ラビリンス(2006年製作の映画)
4.8
子供の頃、親父が夜遅くに酔っ払って大声をあげて帰ってくことがたまにあった。

その時の普段との変わりようと言うか、温厚な父が別人になっている様を見たとき、ある種の大人への恐怖というものが僕に根付いて、今でもたまに思い出す。

主人公の少女オフェリアが見る世界はこんなもんじゃないほど恐怖に満ち溢れているんだけど、やりすぎではないかと言えるような残酷描写も暗い雰囲気も、僕みたいに大人の怖さを幼少期に体験している人間にとっては何ら誇張じゃない。

そう、子供の目からすると大人の世界、外の世界はとても怖いのだ。

簡単に夢を壊し、子供を否定し、自分を蝕む。

いわゆるトラウマと呼ばれるものは、幼少期の頃に体験したものがほとんどだという。

それはあの頃誰しもが持っている真っ白な心に、大人達の言葉や実際的な暴力が、ドス黒い赤い色をして侵食してくるからだろう。

ファンタジーという手法にのっとりながら、その様がリアルすぎるほどリアルで、「テレビの中の怪獣たちが僕の友達だった」というギレルモ監督にしか撮れない作品だと思う。
無論彼も、大人たちに空想世界を否定されてきた一人だろうから。

生きずらい世の中に絶望した少女は王国=死を目指す。

そして、弟を助けたという大義名分のもとに、彼女は永遠の王国、死の国で末永く暮らすことになる。

生きづらい絶望的な世の中においても、僕たちはどうにか生きていかなくてはならない。
その術を、方法を、様々な形で僕たちに示してくれるのが物語の役割だと僕は思う。
その意味でこの作品は、死というものに安易に逃げすぎたのではないだろうか、という批判はある。

でも、観る人にトラウマを植え付けるような描写も、後味が悪く暗い気持ちにさせる結末も、あの頃はなりたくなかった大人になってしまっている自分たちの戒めとしては、かなり十分に機能する。

確かに救いはないが、明日からの僕たちの生き方を変えてくれるほどの力強い物語の力はそこにある。
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