半兵衛

賭博師ボブの半兵衛のレビュー・感想・評価

賭博師ボブ(1955年製作の映画)
3.7
アメリカの犯罪映画「アスファルト・ジャングル」に触発されたメルヴィルが製作した映画といわれるだけあって、多数のメンバーが強盗計画を立案、実行しようするというプロットは一緒。
しかし「アスファルト~」が様々な事情を抱えた犯罪者たちが犯行を終えたあと次次と自滅していくさまを細かく描いていたのに対し、「賭博師ボブ」はツキをなくした初老のギャンブラーが最後の勝負として賭博場の売り上げを強奪しようとするいう、一人の男の生きざまを描いた、どこかユーモアなノワール映画になっている。そんな主人公のギャンブラーをロジェ・デュシェーヌがリアルに、渋く演じており、気高いアウトローを見事に好演している(調べてみたらこの役者さん、本当に裏社会にいたことがあるとか)。
そしてもうひとつ大きく違うところは主人公が生きるパリの風景の描写で、戦前から残っているような古きフランスの風情が残っている建物や店、公園を撮すことで、主人公が古きフランスの心意気を持った人間であるということを暗に示している(気ままに生きる若きベルモンドを、撮影当時における今のフランスの風景とともに切り取ったゴダールの「勝手にしやがれ」はこの映画への返答なのか)。主人公の周囲にいる人たちも主人公のことを気に掛けている警視や、主人公のことを見まもるバーのマダムと緊張感があまりなく、普通の人たちの交流のように描かれている。肝心の犯罪計画の描写も冗談ばっかり言ってて(と言ってもちゃんと入念な下調べや準備はしてるけど)、見ているこちらがハラハラする。案の定、主人公を慕う若いヒロインや、計画に無理矢理参加させられた男の図太くしたたかな女房(この女優さんの演技がうまいためかなり笑える)に犯罪計画が伝わってしまい、警察に知られる羽目に。
そして犯罪を阻止しようとする警察と実行しようとする犯罪グループの争いが始まる、かと思いきや飛んでもないところで犯罪が挫折することに。このオチがブラックユーモアというか、メルヴィル監督が目指す「風俗喜劇」に相応しいもので、警視や主人公、犯罪仲間の小粋な会話で締め括るのもフランス喜劇らしい。
ところで、この映画では「年老いたアウトローが、自分を慕う若い女を仲間の若い男にくれてやる」というシチュエーションがあるのだが、その手の描写を本格的に扱ったのはこの映画が原点じゃないかなと思う。というか主人公のキャラクターや、都会の闇の映像などどんだけこの映画の影響を受けた作品があるのだろう。少なくとも池波正太郎はそうだな。
あとロジェ・デュシェーヌの奔放な美女ぶりも印象的で、抜群なスタイルも相まってこの手の映画でも一二を争うレベルの美しさを発散している(しかもおっぱいまで披露している)。しかし彼女が撮影当時15歳だったとは信じられない、どうみても二十歳前後としか思えない
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