りっく

望郷のりっくのレビュー・感想・評価

望郷(1937年製作の映画)
3.6
アルジェのカスバの街並みが素晴らしい。高低差のある狭く複雑に入り組んだ無数の路地に、所狭しと建ち並ぶ建物の数々。そこで生きる人間たちが息づく営みと、その営みに紛れて息をひそめるお尋ね者。部下や仲間に囲まれ、まるで城下町のような要塞化した街全体が本作の主役だ。

そんな異郷の地で、パリへの郷愁と恋心に突き動かされる男女。2人が出会う場面の視線やライティング、顔のアップがメロドラマのムードを高め、そしてラストで彼女の名前を呼ぶ声は無惨にも汽笛でかき消されることで、メロドラマは悲劇を迎える。

自らを守る城を自らの足で下り、拓けた海へとたどり着く解放感と、その先にある故郷への強烈な郷愁が匂い立ち、手を伸ばしても届かない哀しみがほろ苦い余韻を残す。
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