純愛映画かと思ったらとんだ人怖ホラーだった、、
南北戦争中の英領ノヴァスコシアに、かつての恋人を追ってフランスから越してきた狂気的な美女の話。叶わぬ恋に生きる完全ストーカーなアジャーニ様が大活躍。手紙も返ってこない相手に、全てを許し「優しさで彼を包もう」とする彼女の、節度のない愛が最高に麗しい。それがこの世ならざる美女ときたら尚のこと。
「死ぬまで一緒」と勝手に誓った相手を追ってはるばる大陸を跨いできては、催眠術師を雇って無理やり結婚させようとしたり、彼が別の女性と結婚するのを全力で妨害したりと大忙しのヒロイン。「あなたの手紙を上官に見せるわ!そしたらもう軍隊に居られなくなるのよ!」と恋人(かつての恋人)に吐き捨てる時の彼女の完璧にイカれたお顔が素晴らしく(3回くらい巻き戻して見ちゃった)大好き、、そして神棚みたいなところに彼の写真を置いて、まさしく神に祈るみたいに手を合わせてる描写もとち狂ってる。こんなの普通のことですけど?みたいなテンションでやってて、しかもアジャーニが涙まで流してるのが最高なのです。
円熟期のトリュフォーの映画らしく細かな台詞も素敵でした。「女たちに自由と尊厳を与えること。頭に思考を、心に愛を。愛は私の宗教」「私はまだ若いはずなのに人生の秋を感じる」、、とはえいえ、自由と尊厳を与えられたアデルがやってることはストーカーなわけで、それがまた良き。美しさと狂わしさの2面性が私のツボをずこずこ突いてくる。さすがは元批評家として筆鋒鋭く数多の作品を攻撃してきたトリュフォー。作家的な側面にも抜かりはないですね。不自然じゃない程度に洒落てるのがセンスの良さを伺わせる。
それから作中で判明するのだけど、このアデル女史、まさかのヴィクトル・ユゴーの娘さん!!(タイトルのAdele Hの”H”はHugoの頭文字だったという)。しかも真実の物語ときた。偉大なる小説家の放蕩娘ということで、この異質なストーリーにも納得がいったかも笑。両親の愛情も縁談の話も全てはねつけ、1人の男を一途に想い続けた才人の娘。そして狂信的な愛ゆえに完膚なきまでに落ちぶれていく彼女のお姿、、とち狂ってるけど、間違いなく偉大なる愛の物語ではあるのでした。映画だから笑って見れてられるものの、これ現実でやられたらけっこう本気でホラーだけどね笑。
75年。飛ぶ鳥を落とす勢いの清楚系女優として知られていたイザベル・アジャーニを主演に迎え、なおかつこの修道女みたいな慎み深い風の彼女が写ったジャケット(とあと邦題)から、どうやって、こんな変質的な愛の物語だと想像できるでしょうか。素晴らしく良い意味で騙されたぜ、、まあこの時代のトリュフォーが監督して、わざわざ愚にもつかない純愛物をやるわけもない?のかな。純愛物だとしても見てたけど。まあとにかく嬉しい誤算で、間違いなく言えるのは、この映画のおかげで(せいで)、これまで何人かいる好きな女優さんの1人だったイザベル・アジャーニが私の中でのNo.1大好き女優に跳ね上がりました。やったぜ。