レインウォッチャー

blueのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

blue(2001年製作の映画)
3.5
人の心がこわいのは、髪が交差するほど近くに居ても目に視えないからだ。わたしの好きとあなたの好き、それぞれが胸に映すそれぞれ、同じだけの強さと色なのか、わからない。
だから水面に辿り着きさえしなかった無数の泡たちが、遠く向こうのブルーの底に沈んでいる。ふとした夜、そのささやきが首筋を洗って、思わず目を開く。

魚喃キリコによる原作漫画『blue』は、そんな想いを何歳になろうとも切りつけてくる。
すくない線と開けた背景、表情を真正面から捉えることを避けたようなアングルなんかも手伝って、なんというかとても匿名性が高い。ゆえに、桐島は、遠藤は、彼女たちの季節は、誰の記憶にも薄く透けた栞のように滑り込むのかも。

これを映画にしようと思えば、当然そのままではいられないので、輪郭を増やしていく必要がある。これは難しい作業だと思う。おそらく増やせば増やすほど、『blue』からは遠ざかる。

その点、今作は慎重に、かつ2時間弱の青春映画として成り立つよう意志をもって仕上げている。
より主人公キャラクターとして角が出た桐島(市川実日子)、彼女の進路選択に静かなドラマを用意したり、画集やCDといった桐島と遠藤(小西真奈美)を結びつけると同時に隔てるアイテムに、セザンヌやアズテック・カメラの輪郭を与えて解像度を上げたり。

結果、原作とは別でありながら確かにこれも『blue』だと思わせる映画になっていると思う。それに、小西真奈美の顔だちって魚喃キリコ漫画の線と奇跡的な相性だ。小作りなパーツに、見守るように、そして諦めたようにうっすら上がった口角。

ラストもオリジナルの展開となるけれど、彼女たちが劇中で過ごす浜辺はそういえばいつもパッと晴れずグレーだったことに、最後になって初めて気付かされた。

完璧にブルーな海と空は、美化され防腐保存された想い出の中にしか存在しないのかもしれない。しかし、その青さはあのときあなたに告げた「好き」の痛みも道連れにして、ずっと奥で治らないまま残り続ける。

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ロケ地・新潟の夏と浜の風景、そして光が美しい。室内でシルエットが浮かび上がるようなカットが多く、自然光のさらさらとした感触が掌に残るようだ。

あと、世界の果てに立ってるみたいな自販機が忘れ難い。今はきっともうないのだろうけれど…それでも探しに行ってみたくなったな。