イカのおすし

寒い国から帰ったスパイのイカのおすしのレビュー・感想・評価

寒い国から帰ったスパイ(1965年製作の映画)
5.0
『裏切りのサーカス』と同じく、ジョン・ル・カレの小説を原作とした、冷戦時代の激渋スパイ映画(モノクロ作品)。邦題がなぜか原作と微妙〜に違う。

ジョン・ル・カレ作品の面白さは、「スパイという専門職」を細部まで緻密に描きつつ、情け無用の世界に生きる彼らの心にフと顔を出してしまう人間くさい感情と、それが元で生じる不測の事態がどう着地するのかを冷徹な視線で描くところにあると思う。

それらの要素を本作は損なうことなく上手く映像化している。文章でイメージしにくかったところの補足にもなるので、ル・カレのファンが観てガッカリする事はないだろう。

ちなみに、裏切りのサーカスでゲイリー・オールドマンが演じたジョージ・スマイリーは、ル・カレ小説の常連キャラでここにもチラッと登場する。オールドマンと見た目がかなり違うが、冴えないポチャおじさんという原作のイメージはこちらの方が近い様に感じた。

原作を先に読んでから映像を観ると、大抵は違和感を覚えてカクッとなるものだが、本作にそれは当てはまらない。絶妙な配役と的確な演出、そして原作への深い理解とリスペクトがあるからだろう。

読者のイメージを木っ端微塵にぶち壊すゴリ押し配役と、意味不明かつ独善的な改悪で原作を蹂躙し続ける昨今の日本映画界には、是非とも本作の姿勢を見習って頂きたい。