SANKOU

ブルーベルベットのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

ブルーベルベット(1986年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

どこか白々しさを感じさせる牧歌的で夢のような田舎の風景。
突如、庭の水やりをしていた老人が発作で芝生の上に倒れる。
そしてカメラが地面をクローズアップすると無数の虫たちが蠢いている。
夢と狂気と現実が入り混じったリンチ監督らしい導入だ。
倒れた老人の息子ジェフリーが野原をてくてく歩いていると虫のたかった人間の耳が落ちていた。
彼はその耳を丁寧に拾い知り合いの刑事に届ける。
その刑事の娘サンディはあるクラブの歌手ドロシーが事件に絡んでいるらしいことをジェフリーに教える。
好奇心に駆られたジェフリーはサンディと協力してドロシーのアパートに忍び込む。
が、計画は失敗してジェフリーは隠れているところをドロシーに発見されてしまう。
包丁を突き立てられたジェフリーは言われるままに全裸になるが、そこへさらなる訪問者が。
ジェフリーは慌ててクローゼットに隠れる。
見るからに凶悪な訪問者フランクは、ドロシーに股を開かせベルベットの布を口に入れながら狂気的な幼児プレイをする。
実はフランクはドロシーの夫と子供を監禁し、彼女を脅迫していたのだ。
ドロシーのことを放っておけないジェフリーは危険を顧みずに独自の方法でフランクの罪を暴こうとする。
一応サスペンスとしては筋の通った作品である。
が、何かずっとおかしい気がする。
そもそもジェフリーの行動が衝動的で、おまけにどこか幼稚さを感じさせるので共感することが出来ない。
リンチの作品にはよく現実と夢、もしくは安全な世界と危険な異世界への境界が登場する。
この作品にも何度もこれ以上踏み込んだら引き返せない境界が登場する。
が、ジェフリーは躊躇なく危険に飛び込む。
フランクに捕まり連れ回されるシーンは狂気的な暴力に支配されていて思わずゾッとする。
また何度も「私を叩いて」とジェフリーに今元するドロシーもまた狂気的である。
いつしかジェフリーに惹かれていくサンディは何とかこちら側の世界に留まっているようだ。
最終的にジェフリーはボロボロになったドロシーを開放し、単身で敵の懐に飛び込みフランクを返り討ちにする。
めでたしめでたしなわけだが、やっぱり何だか変だ。
幸せそうなジェフリーとサンディの前にコマドリが現れる。
本来なら愛らしいコマドリもくちばしに虫を挟んでおり何だか不気味だ。
この物語のすべてが誰かの夢だといってもおかしくない。
そして危険な世界へと繋がる隠された境界はいたるところに存在するのかもしれない。
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