ひと通り夏のイベントを終え、夏が終わりゆく寂しさを噛み締めていた今、この映画を観れたことは運命的としか言いようがない。ここには自分が知り得る限りの夏がすべて詰まっていた。こんな自由奔放なバケーションがフィクションとして収められているのが奇跡とすら思う。まるで予定調和ではないし、ストーリーラインに乗っかるわけでもなく、情景そのものよりもキャラクターの刹那的な気分によって終始振り回されるだけだというのに、これは紛れもなくどこかの夏で体験した光景だ。バカンス本来のごく自然な時間の流れ、思いがけないトラブルに見舞われる連続性を、脚色を一切感じさせずに描き切るのは天性のセンスとしか言いようがない。数年後、これらの光景を振り返るときに、あの時はあんなこともあったと、至近距離で記憶に残り続けるほど精細なノスタルジーとなり、第四の壁を超越するほどの親密さがある。