櫻イミト

知られぬ人の櫻イミトのレビュー・感想・評価

知られぬ人(1927年製作の映画)
4.0
「魔人ドラキュラ」(1931)「フリークス」(1932)のトッド・ブラウニング監督と名優ロン・チェイニーの同志タッグによる傑作カルト映画。ヒロインのジョーン・クロフォードはデビューしたばかり(当時23歳)で、本作でチェイニーの演技に学び女優開眼したと後に語っている。原題は「The Unknown」。

腕の無いサーカス団員アロンゾ(ロン・チェイニー)は、団長の娘ナノン(ジョーン・クロフォード)を秘かに思っていた。男性恐怖症のナノンも腕のないアロンゾには気を許し信頼していた。アロンゾはプロポーズしようと考えるが、実は重大な秘密を持っていた。。。

面白かった。“千の顔を持つ男”チェイニーが、本作では足の指でタバコを吸い“腕のない男”に説得力を持たせている。サーカス出身のブラウニング監督ならではの見世物的エンターテイメントで、想像を超える暗黒ストーリーが楽しめた。本作のような奇想天外物語はサイレントの文法でないと成り立たないかもしれない。逆に言えば、サイレントだからこそ実現できた極上の暗黒エンターテイメントが本作である。

アロンゾの恋は相手に伝わることなく”知られぬ人”として終幕する。その悲哀の人生は、ブラウニング監督が関わってきたサーカスやカーニバルの無名芸人たちの姿を象徴しているように思えた。
櫻イミト

櫻イミト