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かもめのジョナサンの一人旅のレビュー・感想・評価

かもめのジョナサン(1973年製作の映画)
5.0
ホール・バートレット監督作。

群れを離れ自己実現に身を捧ぐ一匹のカモメを描いたドラマ。

アメリカの作家:リチャード・バックによる1970年発表の同名ベストセラー小説の映画化ですが、効率を度外視したその撮影手法に現在では再映画化不可能な作品であると言えます。

一匹のカモメ:ジョナサン・リビングストンを主人公にして、勝手な単独飛行を行ったことで群れから追放されてしまった主人公が“より高く、より速く”飛ぶことに人生の全てを捧げていく様子を描いた異色動物ムービーとなっています。

画面に人工物は映しても人の姿は一切映さないという徹底した動物視点の作風が特徴で、ヒッチコックの『鳥』(63)を手掛けた一流スタッフによるカモメの調教と、空を飛ぶカモメをヘリコプターで追いかけながらの難しい撮影手法に制作スタッフの苦労と執念が垣間見える一篇となっています。

カモメ以外にもクジラ、ラッコ、ウマ等の生き物が登場しますが、主人公は群れを離れて孤独に生きるカモメのジョナサンであって、群れの中で何も考えずに生涯を終えていく他のカモメ達とは対照的に、“より高く、より速く”飛ぶことに人生の意義を見出したジョナサンの孤高の生き様を詩情豊かに見つめています。

カモメ達のカリスマ的存在と化していくジョナサンと彼を異端として糾弾する長老カモメの関係性に宗教的暗示が込められてはいますが、自己実現に向けたジョナサンの努力と信念の年月を通じて、“夢を抱くこと”や“他者との相違を恐れないこと”の大切さが自然と浮かび上がってくる作品で、一匹の勇気あるカモメが私たち人間に生きる上での心構えを優しく教えてくれます。

何より、動きの予測がとても難しいカモメを画面に収め続けたカメラワークが見事でありますし(時々カモメがカメラ目線になるのが可愛い)、ニール・ダイアモンドが歌う主題歌「Be」の情感溢れる歌詞&メロディーも味わい深い余韻を残しています。
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