ニカイ

ダンサー・イン・ザ・ダークのニカイのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

本作でやはり特徴的なのは手持ちカメラによる撮影だろう。
その手持ちカメラの臨場感はドキュメンタリー映画のようで、視力や貧困の問題が真実味を帯びて伝わってくる。
だがそこに挟まれるミュージカルシーンは、彼女の劇中の言葉通り、「悲しいことが何もない」とても素敵な世界だ。
歌って踊る彼女の姿は本当に楽しそうで、セルマにとってミュージカルは、生きる活力なのだということを感じる。
しかし後半の刑務所のシーン、恐怖で体が動かない彼女は、処刑台に向かうためにミュージカルの力を借りる。
生きるための活力が死にに行くための活力になってしまうのだ。


ミュージカルが大好きなセルマは劇中で
 「最後の歌は聞きたくないわ
  グランド・フィナーレが始まってカメラが上へと登る」
  それはラストの合図よ」
 「最後から2曲目が終わったら映画館を出てしまうの。
  そしたら映画は永遠に続くでしょ?」
と話す。
 「これは最後の曲じゃない、最後から2番目の歌」
と歌うが彼女が処刑され、その姿がカーテンに隠されてからも、私はもう1曲を期待した。
仕切られたカーテンは舞台の幕のようだし、カーテン下の隙間から見える靴は今にも踊り出しそうなダンサーにも見える。
もう一度カーテンが開いて始まってくれないか?
そんな期待を裏切り、カメラは本当に上へと登って行ってしまう。
彼女は本当に死んでしまったのだ。

劇中に登場するセルマの息子はジーンという。
これは遺伝子を意味するgeneから来ているのではないだろうか。
セルマが心配していた通り、ジーンは遺伝で目の病気を受け継いでしまう。
だがセルマは母として、息子に、小さな希望を持ち力強く生きる姿も残したはずだ。
「私達がそうさせない限り、これは最後の曲じゃない」
というテロップの通り、
彼女の事を終わらせたくないのなら、
ジーンが、そして観客が、彼女の力強さを受け継いでいかないといけないのかもしれない。
ニカイ

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