ウォーボーイズ2024

ダンサー・イン・ザ・ダークのウォーボーイズ2024のレビュー・感想・評価

4.0
レ・ミゼラブル以上の無情さの傑作残酷ミュージカルでした。
この映画では、ミュージカル=主人公セルマの空想の世界である事が基本となって話が進行します。

全編、ミュージカルの場面とそうでない現実の場面との明確な区別化が見事になされています。
映画の大半はまるで手持ちカメラで撮ったかの様な、ドキュメンタリー風の映像、加えてBGMも無い為、ミュージカルの場面は、セルマの空想の世界である事が、より強調されます。
そして、観ている側もセルマの空想の世界が理想郷である様に思えてきます。

劇中で、ミュージカルが始まるたび、無情な現実から逃避するかの様に、空想の世界に夢を観て、それを生きる希望としてきたセルマに対して、深い憐れみを感じました。

また、セルマが日常生活の中で、あらゆる音が空想の世界に導くきっかけとなるのは、視力が弱く、これまで他の感覚器官に頼って生きて来なければなかった事を表しており、セルマにとって《音》は生きていく為の希望だったと暗示しています。
その暗示があるからこそ、終盤、無音で無機質な刑務所に収容された後、最後の希望である《音=空想の世界への逃避》さえも奪われた、セルマの哀しみが鮮明に伝わってきました。

衝撃的なラスト、冒頭と同じセルマの歌と、それが途切れるタイミング、その後カメラがゆっくり上昇していく描写は、セルマが救いの無い現実から遂に解放され、夢のある空想の世界に向かう事が出来た事を思わせます。

恐ろしく非情で哀しいエンディングですが、或る意味、救いのある終わり方だとも感じられました。