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しとやかな獣のHKのレビュー・感想・評価

しとやかな獣(1962年製作の映画)
4.5
この場合の“獣”の読みは “けもの”ではなくて“けだもの”なんですね。
若尾文子主演の大映作品を連続鑑賞。今度は29歳の時の作品。
このタイトルとよろめき風のジャケ写からずっと私の苦手な色恋沙汰のお話かと思っていたら・・・
これはめちゃくちゃ面白かった。

物語はは4人家族が住むアパートの中のみで進行。
この家族、実は詐欺師一家でそれぞれが役割を担い荒稼ぎして贅沢な生活をしていますが、そこに騙された者や家族を利用しようとする者が次々と現れ修羅場が展開していきます。
監督は3作品で若尾文子と組んだ川島雄三(あと2本は『雁の寺』『女はニ度生まれる』)。
脚本は新藤兼人のオリジナル(セリフがまたどれも面白い!)。

実は今回したたかな悪女を演じる若尾文子の出番は思ったより少な目でしたが、他の登場人物たちのアンサンブルが絶妙で、今さらながら最近観た映画の中ではダントツの面白さ。
よくある家族の日常会話と思えば実は不穏なセリフだらけ、狭いスペースを縦横無尽のカメラワーク、怪しいお囃子のBGM(イヨォ~!ポン!)と一瞬たりとも飽きさせません。
おっと『家族ゲーム』のヘリコプター音とラストシーンはこの映画からだったか。

私の世代だとみなさん映画よりもTVでお馴染みの方ばかり。
一家の両親を演じるのは伊藤雄之助と山岡久乃。
伊藤は『必殺シリーズ』他TV時代劇の悪役、山岡はTVホームドラマ(『ありがとう』『いごこち満点』など)のしっかりモノのお母さん役などですが、このベテラン2人の存在感が凄い。

他に金を横領された芸能事務所の社長に高松英郎(『柔道一直線』の“車周作”、『必殺仕置人』の“天神の小六”)。
なぜか本作では表情を観ただけで笑いがこみ上げてくる悲劇の税務署役人の船越英二(TV『時間ですよ』の松の湯の旦那さんなど)。
序盤に登場するピノサク・パブリスタという怪しい歌手を演じる小沢昭一も強烈。
ミヤコ蝶々もまた登場。

もう最初からニヤニヤ笑いが止まらない・・・これは大傑作。
悪女の“あやや”もキレイ。
いや、あらためて古い邦画のこの辺の分野をノーマークだったことを反省。
遅ればせながら今からでも少しずつ開拓していく所存です。はい。
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