Koshi

JAWS/ジョーズのKoshiのレビュー・感想・評価

JAWS/ジョーズ(1975年製作の映画)
3.9
「Shark attack!」

【はじめに】
 水中カメラが映し出す無邪気に海を泳いでいる人たちの足。この足を見るだけで心臓が高鳴る。そう、あのお馴染みの音楽が水中から迫りくる「奴」の恐怖に拍車をかけるのだ。臨場感あふれるサメの襲撃。本作を観てしまったら、しばらく海水浴に行けなくなってしまう。それほどまでにインパクトのある作品であるのだ。動物パニック映画の金字塔と言われているのも納得の1本であった。人間vs人喰いザメ。この映画史に残る壮絶な闘いを映画館で観た体験は、一生忘れることのない貴重な思い出である。
 
【物語の概要】
 ロングアイランドにあるアミティは、アメリカの有名なリゾート観光都市。夏はこの都市にとって1番の稼ぎ時であり、海水浴に訪れる多くの観光客たちがこの都市の大きな収入源となっていた。市長のボーン(マーレイ・ハミルトン)は、今年もビーチに多くの観光客を呼び込むための宣伝に力を入れていたが、予期せぬ事態が発生する。アミティのビーチに人喰いザメが現れたのだ…。

 主人公は、ニューヨークからアミティに出向してきたブロディ署長(ロイ・シャイダー)。彼はアミティの市民の安全を守るため、人喰いザメがビーチに出たことを隠蔽しようとするボーン市長に対して必死の抵抗をする。この2人の戦いが前半の物語を作り上げる。
 そして物語の後半では、ブロディ署長・海洋学者のフーパ―(リチャード・ドレイファス)・サメ殺しのプロであるクイント(ロバート・ショウ)の3人と人喰いザメとの激闘が描かれるのである。

【本作の魅力】
 映画『JAWS』の代名詞ともいえるジョン・ウィリアムズによる音楽から本作はスタートする。冒頭から「待ってました!」とつい言ってしまいたくなるほど、劇場の雰囲気を盛り上げてくれる作品だ。何よりも海にサメが現れたときのビーチでのパニックの様子は、この素晴らしい音楽も相まって臨場感たっぷりである。めちゃくちゃ恐ろしい。サメに襲われて足から喰われてしまう。まさかこんなにも恐ろしい追体験をすることになるなんて公開当時に鑑賞した多くの者は思いもしなかったであろう。本作を観終わった人たちは、海でサメに遭遇するかもしれないという恐怖を嫌でも植え付けられることになる。

 本作はただのパニック映画ではない。まず事件が起きて、その事件を主人公たちが実際に目の当たりにする。ここまでは確かにパニック映画の典型例だ。しかし、本作の魅力はここだけでは終わらない。ここからは、主人公たちがその事件に立ち向かう解決編が始まるのだ。この解決編が「サメ退治」という雰囲気ではなく、完全に主人公たちによるハラハラドキドキの「冒険活劇」の雰囲気を纏っているのである。スピルバーグ監督作品らしさがこの後半戦にギュギュっと凝縮されていることがよくわかる。主人公のブロディ署長以外にクイント、フーパーという魅力的なキャラクターを冒険活劇のメンバーとして配置しているのも上手い。この3人の船での会話だけを切り取っても十分面白いのだ。物語の後半には、主人公のブロディよりもクイントのことを好きになる人も多いのではないか。

 『JAWS』放映以降、サメを題材とした映画で本作の影響を受けていない作品は恐らくないと言ってもいいだろう。それだけでなく、本作を上回るサメ映画もきっと存在しないはずだ。つまり、本作はサメ映画界の元祖チャンピオンとしていまだに防衛をし続けている無敵の名作なのである。驚きなのは、スピルバーグ監督にとって本作は2作目の劇場映画作品だということだ。若いときから既に恐ろしいほどの才能を持ち合わせていたとは。スピルバーグ監督、恐るべし!

【1番印象に残った場面】
 フーパーが、檻に入って先端に毒を塗った槍をサメの口の中へ入れる作戦を決行した場面が1番印象に残っている。このシーンは、本作の中でも1番恐ろしい場面ではないかと思う。背後からサメに襲撃され、肝心の槍を呆気なく海の底へと落としてしまう。ここから、フーパーにとって恐怖の時間が訪れるのだ。
 何度も何度も檻を攻撃してくるサメ。その攻撃によって檻の形がどんどん歪んでくる。そしてついに檻が壊されてしまい、サメが大きな口を開けてフーパー目掛けて突っ込んでくる。絶体絶命のピンチとは、まさにこのときのフーパーのことを指した言葉に違いない。私だったら、腰がすっかりと抜けてしまい、気を失ってしまうことであろう。それぐらい恐ろしすぎるサメの襲撃の場面であり、手に汗握るかなり見応えのあるシーンであった。
この檻のシーンは、後のスピルバーグ監督作品『ジュラシックパーク』内で、カプセルのような乗り物に入ったまま恐竜に襲われるシーンを彷彿とさせるような演出であったなあ。

【おわりに】
 ジョン・ウィリアムズの音楽が頭から離れない。これは、本作を観終わった後にカフェで過ごしていたときの話だ。アイスコーヒーを飲みながら本作の感想を書いていると、突然「例の音」が鳴り響いた。その瞬間背筋が凍り、心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。かなりびっくりした。「なぜ店内でジョーズのBGMが鳴り響いているのか」と周りを見渡してみる。すると、店員さんがテーブルの片づけをするために椅子を引いていたことがわかった。なんと、これが「ジョーズのBGM」の正体だったのである。誰かが椅子を引く音ですら、あのジョン・ウィリアムズの音楽に聞こえてしまうなんて。本作が、観客に与えたインパクトは何も海水浴だけではない。日常生活での何気ない音ですら恐怖の旋律へと変えてしまうインパクトがあったのだ。『JAWS』の音楽は、かなり心臓に悪い。
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