ぱきら

天河伝説殺人事件のぱきらのネタバレレビュー・内容・結末

天河伝説殺人事件(1991年製作の映画)
1.8

このレビューはネタバレを含みます

陰翳、濃過ぎない?
っていう。
光入れる時も眩し過ぎじゃない?

角川シネマコレクションなる配信チャンネル(多分数年後は無くなるなり名前や形式を変えるなりしていそう)で視聴しました。
多くの女優(令和ですと性別問わず俳優と呼ぶ流れは承知のつもりなものの、敢えてこの言葉で)さんたちから信頼を得た市川崑監督の後年の作品ですが。
これ自体は平成の作品ながら、昭和の作品群の雰囲気、ありていに言えば金田一耕助シリーズの夢をもう一度と角川に求められ、自作の再現に徹して終始してしまって、それが効果的とは言えないというか。

能を軸に据えた雰囲気は良かったですが、ここまで陰翳の濃い画面にするには内容がややマイルド過ぎる。横溝正史作品(横溝正史作品は個人的には好きですが)ほどにはきつく重くない内容と背景であるのは良いとしても、映像化する際に、女性に限らず役者さん達にも色彩と影の濃い化粧を施し照明や色彩などに関しても陰翳が極めて濃い重厚な画面作りにしていくと、このストーリーの背景や内容のマイルドさが不似合いになってしまう結果に。映画館でフィルムで観る環境を想定した画面作りをテレビで観てしまった部分を加味しても、内容にそぐわない陰翳の濃さには思えます。

そして、スタッフロールがない。ない!配信だから?
ぶっつり終わります。テレビドラマでも二時間ドラマならもっと余韻を持たせて終わるところでしょうに。
公開当時は宣伝と共に大々的に使われていた主題歌も結局聴かれぬまま終わります。個人の目的としては半分以上、それがどのように流れるのか確認するために流してたんですが。公開時もスタッフロールが無かったんでしょうか?主題歌も流れないままに。違いますよね???真相が少し知りたくなりました…。

シリーズが映画でなくスペシャルドラマとして展開していったのは正解だったでしょう。
榎木孝明さんも確か原作者にもイメージぴったりとお墨付きを頂いていた記憶ですが、当たり役なのだろうとは思いました。浅見シリーズのことをよく知りませんが、この作品では主人公としては思い入れを持ちづらい人物像しか伝わらなかったのも事実ではありますが。
へいちゃん(石坂浩二)は何故ここにという印象ですが、市川崑キャストという意味なのでしょうか。そして作中でこの兄弟は実家でずっとお住まいなんだなあ、長男だけでなく次男も、と思いました。特段事情があるという風でなく、当然のように独身であろうとそうでなかろうと実家に残る男兄弟。由緒正しいと作中でも言われるような名家とはそういうものという描写なのかなあと。浮世離れした羨ましい世界ですが、現代でも旧財閥系などのごく限られた一部の超富裕層にはそういった雰囲気が当然のように残っているのだろうかなどと思いを馳せたりしました。

岸恵子さんはとても美しいですが、この作品に置いての配役としては何かちょっと違うと思いました。
岸恵子さんは作品によっては素晴らしい存在感、そして(正直演技の説得力を求められての配役ではないと思うので)配役が合っていれば演技も気にならないのに、ここでは何だかその宿命の重さに合わない配役に見えてしまいました。
この物語ですと、岸恵子さんの役だけがすべてを背負っている内容なだけに。
あと市川崑作品だけに限らないのでしょうが、舞台演劇の感覚なのか、大人の役者さんにそのまま十代やそこらの回想シーンも演じさせるこの演出方法は、後の世から観てしまうと、映像作品には合わない方法だなあと思えてしまうばかりでございます。
岸恵子さんに何故そのようなという若い時分の髪型や着物を着させるシーンがあるのですが。
それでも邦画史において、この子の七つのお祝いに、の美しく凛々しい岩下志麻さんに、高校生のセーラー服をそのまま着せるという衝撃に勝るものでは個人的には無かったですが。

映画作品としての感想は、導入は、都会の街なかでの突然の事件でそこから山深い地域の因縁に分け入っていくという期待感はあったものの、全体的には薄っすらと勿体なさと物足りなさが漂う仕上がりと感じました。
あとここは原作通りなのかもしれませんが、男性が酷いし女性が惨い扱いを受ける過去の因縁に関しても、そこ自体が胸糞悪くはあるものの、その割には薄い人物描写なだけに、酷い男と縁を持ってしまった女性のやりきれなさも伝わり切らないし、筋としては酷い扱いを受ける女性を見せられるだけになってしまって、そこに人間の業などまでが深みを持って見せてもらえるような作品になっていないことに、観ているほうも残念でしかなく。
常田富士夫さんや奈良岡朋子さんも少しだけ出ていたりと名優のお姿も見られるだけに、作品としての仕上がりは満足とは遠くはありますが、平成初期の雰囲気を味わうにはいいかもしれません。
ぱきら

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