黒田隆憲

チェイサーの黒田隆憲のネタバレレビュー・内容・結末

チェイサー(2008年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

10年ほど前に観て衝撃を受けたのですが、いつの間にかポン・ジュノの『殺人の追憶』とごっちゃになってました。こちら『哀しき獣』も最高だったナ・ホンジンの長編デビュー作。シリアルキラーの不気味な描写や、元警官で今はデリヘルの斡旋をやっている主人公の、ボンクラだが憎めないキャラクター設定など、やはり韓国映画は振り切れていて最高。土砂降りの雨の中、入り組んだ細い坂道での追走劇など、おそらく『パラサイト』は少なからず本作の影響を受けているはず。

冒頭で犯人が誰なのかも、殺害現場がどこなのかも全て明かし、そこにたどり着きそうで辿りつかない登場人物たちへの、観る側の苛立ちを煽る手法は見事。世間体や面子ばかり気にして捜査の邪魔をする無能な上層部、堅実だが上の命令に逆えず、結局犯人をあと一歩のところで取り逃してばかりの愚鈍な警官たち。唯一核心に近づけたのが、「持たざる者」である主人公だけという胸熱な展開に、エンディングまで目が離せなくなった。

最初は自分の「商品」であるデリヘル嬢たちが、ある一人の客のせいで次々と失踪していることに対し単純に苛立っていただけだった主人公の心情が、途中から嬢のうちの一人(ソ・ヨンヒ)を体調不良だったにも関わらず出勤させたことへの罪悪感へと変わっていく。そして、どうやら犯人は嬢たちを殺し続けていると確信してからの、「執念」ともいえる追跡へ。とにかく走るシーンが多いのだけど、何度もこみ上げるものがあった。

直接的な殺害描写はないが、自分が殺されると悟ったときの被害者の「絶望」がひしひしと伝わってきて陰鬱な気分に。特にソ・ヨンヒは一度殺されかけ、なんとか逃げ出したのにまた犯人に見つかってしまうという、情け容赦のない絶望描写。

ちなみに、ソ・ヨンヒの娘(キム・ユジョン)は、いったい誰に殴られたんだろう?
黒田隆憲

黒田隆憲