Yoshishun

パリの恋人のYoshishunのレビュー・感想・評価

パリの恋人(1957年製作の映画)
3.9
“倫理観ぶっ壊れラブコメ”

いやはや、超展開が続くロマンティックミュージカルだった。
オードリー・ヘプバーンとはウィリアム・ワイラー監督と並び3度のタッグを組んだスタンリー・ドーネン監督との初タッグ作。
原題は「Funny Face」でおかしな顔と訳されるのだが、オードリーが変な顔と呼ばれる姿には違和感を覚えるはず。しかし、ドーネン監督らしいシャレオツなOPに写る目鼻口だけのオードリーを見ると案外そう見えなくもないから不思議だ。

内容自体はこれといった斬新さはないラブストーリーだ。地味な女の子が運命の人と出会い恋に落ちるという王道展開を、ファッションモデルと写真家の間で描いているだけだ。しかし、王道で終わるはずなのに劇中での出来事は中々破天荒でブチ切れる人がいてもおかしくはない。

冒頭でニューヨークファッション誌の編集長一行は、モデルの知的さをカバーすべく古びた書店へと赴く。その書店で働く女店員こそオードリー演じるジョーなのだが、突然のアポ無し訪問で店内を荒らしまくり、挙句の果てには邪魔者としてジョーを店外に締め出す。直前では、流行色はピンクよ!とはしゃいでいた面白編集部だったのに、この警察よろしくな事案を見せられると結局は自分勝手な連中にしか見えない。

しかし、ジョーもそれなりに捻くれた性格をしており、恋というものを共感主義として難しく考えすぎる面倒臭さを秘めており、パリでの初仕事の打ち合わせをスッポ抜かし1人カフェで老人たちに共感主義を説いているのだ。勿論、言語により理解してもらえてないので酒で釣っただけなのだが。そもそも、書店の店長には渡仏について相談したのかさえも怪しい。

このようなぶっ飛び展開が続くだけなら途中で興ざめしてしまうのだが、やはりオードリー・ヘプバーンの魅力、そしてスタンリー・ドーネン監督らしいお洒落な演出で最後まで楽しく観れる。正直書店にいた頃の地味めな姿の時が一番美しかったのだが、過去作では観られない彼女の特技を活かしたダンスシーンは必見。先日午前十時の映画祭で鑑賞した『マイ・フェア・レディ』とは打って変わり、本作は躍動感に溢れ、そこにバレエで培ったであろう脚のしなやかさや彼女の性格を表すようなお転婆な動きが加わり、視覚的に楽しめる完成度。そこに監督の映像的な遊び心が加わるのだから、面白くないわけがない。

また、ヘプバーンの相手役であるフレッド・アステアも、当時60歳とは思えない俊敏な踊りとコミカルな動きで魅了する。赤いバックライトに照らされた現像室でのダンスシーン、パリでの宿泊先にいるジョーに向けた傘などを活用したダンスシーン、最後の写真撮影の場である教会でのロマンティックな歌唱シーンの全てが色気と陽気さがミックスされていて良かった。

斬新さはあまりないので、如何にも当時のハリウッドドリームなハッピーエンドを迎える。しかし、オードリー・ヘプバーンとスタンリー・ドーネンの出会いは運命だったとしか思えない、大胆かつユーモラスな作品だった。
Yoshishun

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