一人旅

コンフィデンス/信頼の一人旅のレビュー・感想・評価

コンフィデンス/信頼(1979年製作の映画)
4.0
イシュトヴァン・サボー監督作。

二次大戦時ナチス支配下のハンガリーを舞台に、レジスタンスの夫を持つ女・カタリンと仮の夫・ヤノシュの偽装の夫婦生活を描いたドラマ。
静謐な映像の中に、戦争が人間の内面にもたらす負の影響を描いている。
“誰も信用してはいけない”という仮の夫・ヤノシュの心の声が印象的で、戦争の実態を端的に表している。当時のハンガリーは人が人を裏切る混沌とした時代。密告された人間はナチスに連行され、レジスタンスやユダヤ人はいつ自分が捕まるかも分からない恐怖に心を支配されながら日々を生きている。夫婦が偽装生活を送る家の家主に対して余計なことは一切口にしないよう細心の注意を図り、町に出かける際も不必要に人に会わないよう徹底する。たとえ級友と再会しても、素っ気ない態度でその場を後にするしかない。
爆撃、尋問、虐殺といった肉体的で目に見えるかたちの暴力だけが戦争の実態ではない。戦争は人間の心そのものを不信一色に染め上げていく。
偽装生活を送る中で、二人は次第に愛し合うようになる。だが、その純粋で嘘偽りない気持ちにさえ、戦争は容赦なく介入してしまうのだ。“もし妻がナチスに通じていたら?”という不信がヤノシュの愛を遮る。そんなヤノシュの姿とは対照的に、仮の妻・カタリンは隠し切れない愛を激しく求めてしまう。夫と妻、それぞれが相手に銃を突きつけ合うことで“信用”を確認する作業があまりにも悲しい。戦争によって相手に対する不信に支配された心と、心の中でどうしようもなく高まっていく本能的な愛のせめぎ合いに夫婦は苦悩するのだ。仮の夫と仮の妻の関係同様、二人の間で芽生えた愛も仮の愛なのだ。最後に見せるカタリンの涙と、必死に妻の名を叫ぶヤノシュの姿が印象的で、“戦争とは一体何だったのか?”という虚しさを覚えてしまう。ヤノシュの不信がついに妻の心にも伝染してしまったかのような結末が切なく、それは戦後ナチスからソ連へと不信の時代が継承されていったことを暗に示しているようだ。そうした意味では、本作製作当時ハンガリーを抑圧していたソ連に対する反発心を監督なりに訴えているように思える。
一人旅

一人旅