都部

ドラえもん のび太のドラビアンナイトの都部のレビュー・感想・評価

3.5
旧ドラで見られる作品の鍵となるひみつ道具による場面展開からの入りは導入として優秀で、絵本入り込み靴の基本的な能力とそこからの絵本をバラバラにしたことで生まれる奇妙な御伽噺の混合の画が面白くてこれが本題でもいいくらいだった。

そこからのスピーディなしずかの奴隷化と絵本の焼却は『どうするんだよこれ……』という関心を掻き立てられたが、過去のアラビアと絵本の中のアラビアが何故か通じていることになり、一度は否定された時間旅行でのしずかの救出の流れはやっぱりいくら考えてもよく分からない。

設定の破綻に訝しむ気持ちというよりは、意味不明な理屈に対するツッコミがなされずに物語が進展していくことの不気味さがあった。

しかしアラビアでの冒険譚は素直に面白くて、奴隷の身分に落ちたしずかの状況を同時進行で描きながら、ポケットを奪われたことで人力によって四苦八苦するドラえもん一同という構図は他の作品にはない緊張感を生んでいると言える。『道がないのに道に迷うなんて迷子の天才かよ』『ポケットのないドラえもんなんてただの中古のロボットだよ』と、旧ドラならではのエッジの利いた台詞の応酬も楽しかった。

利便性の高い道具を数多く所有する黄金宮の主:シンドバッド登場から物語は大きく動き、この道具と黄金宮の成り立ちの正体はなるほどなという拾い方。ツッコミどころはあるが、ひみつ道具を使えない状況がしばらく続く本編のSF要素のカバーになっている。そうした状況が続いた末にポケットを取り返すことで、ひみつ道具で逆転する展開もカタルシスがあって良かったし、安寧を得て情熱を失った御伽噺の主人公が再度 心にヒーローとしての熱を手に入れて物語を決着させる展開も好み。
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