SANKOU

モロッコのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

モロッコ(1930年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

モロッコのフランス外人部隊駐屯地での、歌姫アミーと大富豪ベシェールと兵士トムの三角関係を描いた作品。
トーキー初期の作品だが、人物描写に台詞のセンスの良さ、映像の美しさなどかなり完成度の高い作品だと感じた。
大富豪のベシェールとあくまで一兵士に過ぎないトムが同じタイミングでアミーに恋をするのだが、真面目で品のあるベシェールではなく、女たらしで危険な魅力のあるトムにまずアミーがこっそり部屋の鍵を渡すのが面白い。
部屋を訪れたトムとアミーのやり取りは台詞の面白さもあってかなり印象的だ。
お互いに手の内は見せないといった感じで、挑発するような視線を交わす。
「女を軽く見ているのね」というアミーに対して、「女がそう感じさせるのさ」と答えるトム。
「外人部隊は男だけのものではないわ。女も同じよ。軍服も旗もないし、傷は体ではなく心に負うのよ」という彼女の台詞が心に残る。
あくまでトムには何の気もないという態度を取るアミーだが、ついに彼に「もう帰ってちょうだい。このままだと好きになってしまいそう」と本音をもらしてしまう。
トムも「今まであらゆる口説き文句を使ってきたけれど、これは初めて使う言葉だ。君とは10年前に会いたかった」と答え部屋を出ていく。
アミーはいつもすぐにトムの後を追いかけないが、必ず彼の後についていく。
多くの女性にモテるトムはセザールという上官の妻とも良い関係になっているのだが、アミーとのやり取りを見てしまったセザール夫人は嫉妬にかられて現地人にトムを殺害するように依頼する。
刺客を返り討ちにするトムだが、そのせいで軍法会議にかけられそうになってしまう。セザール夫人の名前を出さなかったことと、ベシェールの働きによって何とか処罰は免れたものの、彼は危険な任務のために遠征しなければいけなくなってしまう。
決してベシェールは底意地の悪い人間ではないが、これを機にとアミーに接近する。
豪華な花束と腕輪を彼女に贈るベシェール。ベシェールは自分と結婚してくれないかと彼女に告白する。答えを先送りにしようとするアミー。
あくまでもトムに対しては恋愛感情はないと言い張るアミーだが、本音ではベシェールよりもトムに心を惹かれている。
楽屋に別れを告げに現れるトム。しかし、彼は部隊から脱走してヨーロッパへ逃げようと企んでいる。一緒に来てくれないかかとトムはアミーにお願いをする。そして彼女はその申し出を承諾する。
ステージが終わるまで楽屋で待っていてと告げるアミー。トムは待っている間に、ベシェールが彼女に贈った腕輪や花束を目にする。
それを見たトムは考えた後に、口紅を使って鏡に「気が変わった、お元気で」と記して出ていってしまう。
しかもトムは脱走することなく部隊に加わり任地へと赴く。その様子を見守るアミー。すると部隊の後を幾人かの女性が荷物を持ってついていく。
あれは何かとベシェールに問いかけるアミー。ベシェールは「あれは後援部隊だ。大好きな男とどうしても離れたくないのだろう。部隊に追いつけない場合もあるし、男が死んでしまう場合もある」と答える。
それを聞いたアミーは複雑な表情になるが、トムの後を追うことはしない。
やがてアミーとベシェールは婚約する。その披露の場で、外人部隊が戻ってきたことを知るアミー。
思わず飛び出してトムを探すが、トムはまだ任地にいると言われる。どうやら重症を負ったらしいとの情報を得たアミーは、いてもたってもいられずトムの元へと向かう。
複雑な心情のベシェールだが、愛するアミーのためならばと彼女を彼のもとへ連れていく。
重症という話だったが、実はトムは重症のふりをしていただけで、そのせいで罰を受けていた。再び危険な任務につくことになるトム。
酒場で久しぶりに再会するアミーとトム。あれほど必死になってトムの元へと急ごうとしたアミーなのに、実際にトムを前にすると強がりなのか、何でもない風に振る舞おうとする。
しかし、このままでは彼は危険な場所へ行ってしまい、今度こそ会えないかもしれない。
酒場を出ていくトムを追いかけられないアミー。ふと気がつくとトムが座っていたテーブルには、彼が彫ったと思われるアミーの文字があった。
いよいよ任地へと出発するトム。それを最後まで冷静に見送ろうとするアミー。しかし彼女はついに自分の衝動を抑えられなくなる。呆然とベシェールが見守る中、彼女は他の女性たちと同じように部隊の後を追っていく。砂漠の中を裸足でどこまでも。
名シーンとして語り継がれるラストは確かに映像として見事なものだった。
個人的には男を追っかけていく女性の姿というのはあまり観ていて美しいものだとは思わないのだけれど、なるべくしてなったラストという感じでとても心には残った。
アミー役のマレーネ・ディートリッヒがとにかく美しく、彼女の魅力で成り立っているような映画だと思った。
済ました顔や、挑発するような表情の彼女もとても色気があるのだが、危機迫った表情の彼女もとても美しい。
トムと一緒にヨーロッパへ逃げることを了承した彼女が、楽屋で待っていてと彼に告げる時の表情があまりにも印象的で忘れられない。
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