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イザベル・アジャーニの惑いのemilyのレビュー・感想・評価

3.8
19世紀のフランス、郊外の町で仕事をすることになった青年アドルフ。そこで伯爵殿出会い、彼の愛人であるエレノールに惹かれる。彼女には2人の子供がいて年齢も離れてるが、情熱的なアプローチを続け、気持ちもどんどん盛り上がっていく。初めこそ拒否していた彼女も徐々にこころを開き始め、2人は愛の罠に落ちていく。

豪邸の人々の奥行き感のある配置、そこから浮かび上がる閉鎖感、緑の中に儚げな秋の色付きが、2人の愛の形と交差する。先の見えない一本道、2人は見えない未来に向かって歩いていく。心情に寄り添う風景や自然の描写が美しく、しっかり行間を埋めている。

2人の愛の囁きは詩的で、情熱的で流れるようなリズムがある。そうして色褪せない神がかった永遠に続くような美の持ち主、イザベル・アジャーニの透明で品のある美しさは異彩を放っている。

彼女自身が惚れ込んだコンスタン著の『アドルフ』を映画化したものであり、一人称の語りアドルフの目線で綴られていくのだが、彼女の存在感が彼の語りを良い意味でかき消していき、曖昧なアドルフの言動や行動を良い具合にぼやけさせてくれる。

愛に行き破壊へみずから落ちていく。まさにイザベルのための役柄である。一気に距離がつまり彼しか見えなくなる。愛を知らなかった彼女が愛に芽生えると、まさに盲目に自分も周りも破壊へと導いていく。離れてる時間息ができないほどかれを思い、ただ会えるその瞬間だけが生きる理由になる。

しかし男は追いかけてた恋が手に入った瞬間、その情熱は薄れ生活との葛藤で愛した存在が苦になっていくのだ。ひとを愛するために生きる。愛することの究極がここにありそれは死と直結する。愛とは命がけで、そこには駆け引きや比較はない。ただ愛してる。それが全てで、それだけで幸せなのだ。破壊に導きそれでも愛したことは消えない。その満ち足りた瞬間かあれば満ち足りている。そうしてその強烈な存在感はわたしの心にもしっかり居座り、彼を愛の呪縛から離さないだろう。
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