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リリイ・シュシュのすべてのこまちのレビュー・感想・評価

リリイ・シュシュのすべて(2001年製作の映画)
4.7
思春期ならではの鬱屈した感情、誰もが持つ心の深層で蠢く衝動を不純物としてではなく、純粋に表現しているように感じた。

現実にはあり得ないような過剰過激と思える演出もあるけど、それは現実離れしてるというよりは現実の延長線上にあって、映画全体であのなんとも言えない青春のあれこれを象徴している。というか、自分が知らないだけであって、これくらい、これ以上に酷いいじめが実際に起こっているから恐ろしい。
見たくないものや見てないふりをしてきたものも全部見せつけられた気持ち。

自分とは程遠い中学生のようで、なぜかえぐられるような気持ちになるのは、彼らのように行動を起こしているか否かの違いだけかもしれないとも思った。

主人公がリリイシュシュを崇拝するくらい好きなのも、見ていると作品にどんどんのめり込んでしまう感じも、ティーネイジャーの精神世界の象徴的な表現も含めてなんだか宗教的。
鑑賞者を生贄にして、思春期のうぶで生々しくてもろい感情を洗い出す儀式みたいな映画。

音楽も素晴らしい。何度も流れてくるドビュッシーの曲が印象的で、リリイシュシュの曲も中毒性があって、中学生くらいになるとコアな人がこぞって聴きそうな歌声とメロディー。

生徒達の手持ちカメラのブレブレの接写や、揺れるような撮り方が多いから視覚的にもしんどい。それを超えるくらい美しい田園風景や、静と動のバランスが良くてさすがだなあと思ってしまう。
ほとんどというくらい逆光のショットで、演者達の顔に影が入ることで見え辛さがある上に、より暗さが増す。鬱映画と言われる所以…
田園の中で、リリイシュシュを聴きながら喚き叫ぶシーンが好き。たまに山とか広大な場所で思い切り叫びたいと思ってた中高生の時の衝動が正に具現化されたようなシーンだった。

有名な俳優さん達がみんな若い幼い…!と驚くのも束の間、気づいたらどっぷりと、ぼんやりしているようで瑞々しい世界に浸かってしまった。


なんでだろう。観ている間もなんかしんどいし観終わってからも2回目はきついかもと思いながら、なぜか今見返したくてたまらない。なんなら、ちょっとずつ見返してしまっている。岩井俊二マジック。
岩井俊二監督って、精神の奥底をなでるような感じだから疲れるんよな…
とはいえ、まだリップヴァンウィンクルとこの作品しか見てないけど。感動と衝撃で大混乱することがわかってるから、なかなか見る勇気が出ない…でも、やっと見られたリリイシュシュ!
中学生当時見てたらしんどすぎて嫌いになってたかもしれないが、まだ学生の立場で主観的にも客観的にも捉えられる今だからこそ見てよかった。
自分が生まれた年の、生まれる数ヶ月ほど前の映画なので、感慨深いものがある。
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