このレビューはネタバレを含みます
主人公の行動に主体性はほとんどない。なし崩し的に万引きを行い、なし崩し的に売春の斡旋を行う。
主人公は久野がレイプされるのを守ることができず、問題意識を抱えながらも、星野から守ってくれと津田に言われても無言を貫いた。
しかし最後、彼は唯一の主体的な行動である、星野の殺害に出る。
「きっと大丈夫だよ。久野さん、強い人だから」津田はそう言って自殺し、久野はレイプされながらも頭を丸めて投稿した。
流されているのは自分だけだ。
「頭の中で、ずっと変な音が鳴ってるんです」
流される他者を失った主人公はリリイ・シュシュというアーティストの物語に身を委ねるしかなかった。
ラストシーン。
コンサート会場の外、たった1人でリリイの歌を聴く。たった1人で。集団心理の外側、自己の決断として主人公は星野を殺害した。
リリイ・シュシュの物語は他人の物語ではない。同級生、ライヴをみた人たち、集団の物語ではない。自分の、自分だけの物語なのである。