櫻イミト

死神の谷/死滅の谷の櫻イミトのレビュー・感想・評価

死神の谷/死滅の谷(1921年製作の映画)
3.5
ラング監督が初めて国際的に注目され、演出的にもターニングポイントとなった作品。ルイス・ブニュエルが監督を志すきっかけとなり、イングマール・ベルイマン「第七の封印」に影響を与えた一本。

原題は「DER MUDE TOD(物憂い死神)」。死神に恋人の命を持ち去られた女性は、死神に恋人を生き返らせて欲しいと懇願する。死神は3つの命を救うことができたら生き返らせてあげようと約束し、女性は3つの時空、ペルシャ・ベネツィア・中国に次々と転生していくのだが。。。

序盤と終盤に描かれる死神と女性のメインパートの画力が非常に強い。門のない巨大な壁、沢山のロウソクが灯る広い部屋と言った幻想ビジュアルは映画史的に初めてなのではないか?死神(ベルンハルト・ゲッケ)のルックも絶妙で、このイメージは後に大きく影響を及ぼしていると思われる。その画の力が大きく作用した愛と死の物語も、哲学的で深みを感じた。本作公開の2年前までは第一次世界大戦が繰り広げられており、ドイツだけで250万人が亡くなっている。そうした時代に作られたことを考えると、本作のラストシーンは宗教とは違った慰めと励ましを人々に与えたかもしれない。

間に描かれる3つの時空のエピソードは、必要なパートではあるが少々ゴチャついた感じだった。それでも、ラング監督が得意なトリック撮影が特に中国パートで発揮されていて見どころとなっていた。

※美術セットは「カリガリ博士」(1920)を担当したヘルマン・ワルムとワルター・レーリッヒ。

※脚本のテア・フォン・ハルボウは、ラング監督と前年の「放浪の像」(1920)で初めて組み、翌年の「ドクトル・マブゼ」(1922)完成後に結婚。以降ドイツ時代の監督作をほとんど手掛けている。
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