ボブおじさん

スラムドッグ$ミリオネアのボブおじさんのレビュー・感想・評価

スラムドッグ$ミリオネア(2008年製作の映画)
4.3
第81回アカデミー賞で作品賞を始め計8部門を受賞した、「トレインスポッティング」「イエスタデイ」のダニー・ボイル監督による感動のサクセス・ストーリー。

1問ごとに賞金が跳ね上がる人気クイズ番組に挑戦したジャマール(デヴ・パテル)は、史上最高の賞金を獲得する寸前に警察に逮捕された。イスラム教徒の母を暴徒に殺され、スラムで育った無学なお茶くみの彼がこんなに正解するはずないと、不正を疑われたのだ…。

世界中で大ヒットしたこの映画は日本やアメリカではリメイクされていない。今後もおそらくされないだろう。その理由は、本作の舞台であるインドの圧倒的な貧しさにあると思う。日本や欧米では、ここまでの貧困は描ききれない。

このどん底のスラムドッグ(スラム育ちの負け犬)から、少年が這い上がる疾走感と当時のムンバイの急激な経済成長がラップしてこの物語は異様なカタルシスを生むことになる。

当時のムンバイはドバイと並んで新興成金都市の象徴であった。その街の持つ清濁併せ持った勢いは、残念ながら当時のそして今の日本には無い。その証拠に、後に日本で舞台化されたこの物語は、舞台を東京とせず原作通りインドでの話として公演された。

巨額の賞金を賭けたクイズに18歳の無学な青年がなぜ正解することができたのか。それは一つ一つの問いの答えが、どれも彼の心と身体に刻み込まれた経験から導き出されたものだからだ。

ジャマールは無実を証明するため、彼が体験したスラムドッグとしての自分の波乱に満ちた半生を語り出す。

ボイル監督はカメラを実際のスラムに持ち込み、その映像はインドのA・R・ラフマーンによるにぎやかな音楽の力も借りて疾走感満点。奇跡のクライマックスになだれ込む!

〝一攫千金でスラムから豪邸へ〟という現代インドが取り憑かれた節度を欠いた上昇志向に対する皮肉も描きながら、純度の高いラブストーリーにもなっているという演出は見事。

国中の視聴者が固唾を飲んで見守る中、まるで動じた様子を見せないジャマール。彼のこれまでの生死をかけた壮絶な人生と比べれば、大金を賭けた最後の1問の緊張など取るに足らないことなのだろう。

劇場で鑑賞した映画をDVDにて再視聴。