がちゃん

アラビアのロレンスのがちゃんのレビュー・感想・評価

アラビアのロレンス(1962年製作の映画)
3.9
70ミリの大画面を最大限に生かし切ったという意味では、スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』と双璧をなす。
『2001年』が無限の宇宙に神秘を求めた旅だったのに対して、こちらは人類の内なる欲望を果たすための砂漠での行軍。

アラビアに赴任を命令されたロレンスがマッチの火を消した瞬間に大砂漠の日の出のシーンに変わる鮮やかさは、『2001年~』で、モノリスに触れたヒトザルが骨を高く放り投げて宇宙船に変わるシーンと同じくらい凄い。

オスマン帝国軍に苦戦を強いられていたイギリス軍は、その戦況を打開するためにロレンスをアラビアに送る。

部族間対立の激しいアラブ人たちを団結させ、アラブ人のための独立を旗印に任務をこなしていくロレンスだったが、結局、現在でも続いているパレスチナ紛争の基となったともいえるイギリスの三枚舌外交で、昇進はしたものの、空虚な気持ちでアラビアを去る。

全編中、三分の二くらいがロレンスをはじめとしたアラブ人部族の行軍シーンで、劇的なドラマ展開はない。

それなのに3時間をゆうに超す本作がいささかもだれることなく物語が進行するのは、フレディ・ヤングによる砂漠の大自然を見事にとらえたカメラによるものと言っていいと思う。

冒頭の日の出、風によって流れを変える砂紋、蜃気楼、舞い上がる砂ぼこり、猛烈な砂嵐、何もかも飲み込んでしまう流砂・・・

時には脅威ともなる美しい自然現象に、モーリス・ジャールの雄大な音楽が乗り、まさしく本作は名作となりえた。

アラブ人を見下し、狡猾な手段でアラビアを支配しようとする高貴なイギリス軍のイヤなところの点描がドラマとしてのアクセントにはなっており、デヴィッド・リーン監督は、砂漠での過酷な戦闘によりもたらされる虚無感に説得感を持たせる。

もし本作がリメイクされ、この壮大な自然現象をCGで撮影するようになったらどうなるであろうか。
結果は火を見るより明らかですね。
『ハムナプトラ』になります。

CGは実写を超えることはできない。
映画よ、原点に返れ!と思わず叫びたくなる作品です。

ロレンスを演じる、ピーター・オトゥールはもちろん好演ですが、決して交渉相手に本心を見せず腹芸でしたたかに外交をこなすファイサル王子を演じるアレック・ギネスの存在が光る。

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