まぬままおま

ヴァージンのまぬままおまのレビュー・感想・評価

ヴァージン(2012年製作の映画)
3.5
今泉力哉監督『くちばっか』、福島拓哉監督『ゴージャス・プリンセス!』、吉田光希監督『ふかくこの性を愛すべし』の3篇からなるオムニバス作品。

以下、各話ごとにレビューする。

『くちばっか』
今泉監督のオリジナリティと言うべき、クスっと笑える会話劇を堪能できる作品。しかしその背後には死がつきまとっているのだが。
2012年に制作されたからなのか、それとも今泉監督が福島出身だからなのか、東日本大震災が登場する。期せずして3月11日が誕生日の彼。彼女に嫌か聞かれるが、「別に」と彼は言う。それもそうだ。彼の方がすでに生まれてしまっているんだし、誰かの生まれた日は誰かの死んだ日でもあるのだから。

彼は誕生日プレゼントとして腕時計をもらい、嬉しそうに身につける。しかし時が止まっている。それは死の象徴だ。そんな死を身につけた彼が、彼女のロスト・ヴァージンに関わるのである。

彼女は喪失を経験する。けれど失うとは、すでに何かーこの場合、彼女の存在ーが在らなければ起こり得ないし、未来への始まりの契機にもなり得る。

姉への好意。事後のシーツに残る汗のシミ。それらは在ったことの痕跡だ。その時間を引き受けながら、なぜか時が動き出す腕時計のように今を/未来へ生きていくしかないのだ。

思うに長回しで撮るとは、私たちの現実と同じように流れる時間を撮ることなのかもしれない。そして今泉監督はお団子ヘアと裏太ももにフェティシズムがあるのではないかと邪推する。これは完全に蛇足ですが、面白かったです。野球拳のくだりも最高でした。

『ゴージャス・プリンセス!』
セクハラ・パワハラが横行する社会で漫才をする女芸人。全てを笑いに変えるのが漫才師だと思うが、どうしても笑えない心の葛藤や焦燥があって…。と過大評価したいところだが、男社会を許しているのは論外だし、終始チープなコントが行われているだけだった。

『ふかくこの性を愛すべし』
破壊と回復の愛物語。恒常性を持たない高校生の彼は破壊を、薬を調合し身体を治癒する彼女は回復の象徴だ。
彼は痴漢によって、彼女の閉じた身体をこじ開ける。痴漢は犯罪行為だ。しかしこの法を破壊する行為は、愛と共振し、彼女の性衝動を突き動かす。
彼女は彼との情事で、身体の破壊と喪失を経験する。しかしその喪失を充足する彼は、愛はもう存在しない。回復できない彼女は、ただ叫ぶことしかできない。

セリフの少ない静謐な物語は心地よい温度感だし、『くちばっか』と対比的にみても面白い。高校生の彼は、母が新しい恋人をつくって未だ女であり続けることから、薬剤師の彼女に接近すると解釈することは言い過ぎかもしれないが面白い作品でした。彼女の自慰行為の描き方も生々しかったです。