青の

宇宙戦争の青ののレビュー・感想・評価

宇宙戦争(2005年製作の映画)
4.0
【「これまじでヤバイ」の表情】

スピルバーグと言えば?の問いに『E.T.』や『ジュラシックパーク』『プライベート・ライアン』を挙げる人は多いし、だよね!だと思う。
しかし、個人的には今作一択だ。


—子供オヤジの苦悩—
スピルバーグこだわりの「成長しない大人」が、今回も徹底的。
『未知との遭遇』では家族をほったらかして、幸せそうに宇宙へ行っちゃう親父。
初見で「え?!家族捨てちゃうん?」と驚愕したものだ。
さらには『ジュラシックパーク』では恐竜オタクのおじさんが、本気で子供が好きじゃないとボヤく。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』や『フック』『トワイライトゾーン/第2話』では完全に「大人になりたくない大人」が描かれた。
どの作品も監督の姿であり、本人も気付いているだろう。
『E.T.』ではエリオットに「いや、僕残るし」とさせといて、逆にあのNASA職員には「ずっと探していた」と言わせた。

好意をもっての捉え方だと「どんなに歳を重ねても、あの頃の純粋な気持ちは忘れないでいよう」的なメッセージにも見える(普通はこれ)。
でも、あまりにしつこくて「こんな大人になっちゃダメだぞ」なんて警鐘にもとれる。

で、今作もレイ(トム・クルーズ)がドイヒーである。
徹底的に子供オヤジである。
ある考え方なら「若々しくて可愛いじゃん」だろうが、子を持つ母親であれば「キレやすく車大好きな、父親になれない無能」に見えるだろう。

終盤でもさほどレイは成長していないのかもしれない。
あまりの極限状態であるから、吊り橋効果的に子供等はいくら無能親父でも頼らざる得ないだけだったかも?とか。
息子とハグはすれど、これからどうなるのかは示していないし、スピルバーグもそこに答えを見出していないようにも感じる。
つまり今作でも「俺こんなんだけど、大人だよね?正解だよね?」と訴えて終わっている。

今度、自叙伝的な新作が公開されるが、どうにも生涯に渡ってのテーマのようだから結局は「うんうん、ええんやで」ってなりそうだ。
とにかく、スピルバーグの「子供大人論」に自己完結が出るのか、ままなのか?楽しみです。


—9.11の衝撃—
トライポッドの咆哮のような起動音。正に空襲警報か核ミサイル警報に聞こえる(『ミスト』でも似た感覚があった)。
脅威は空ではなく地中から(思いもつかぬ意表を突いた攻撃)。
虐殺シーンで、人の灰に塗れたレイの姿は、9.11でビル崩壊直後の映像で見た市民のそれだ。
「なんだか分からないけど、ヤバイのは分かる。これは本気でヤバイやつだ。逃げろ!とにかく逃げろ。
頭で整理する必要も時間もいらない、とにかくヤバイ」
このレイの挙動は本当にゾっとした。
自分は現地に居たわけでもないしニュース映像しか知らない。
しかし、初見で「ああ9.11だ」とすぐに理解できた。
日常からかけ離れた本当の恐怖ってこうなんだろうなって。
それを今作では見せつけられた。見事だった。
で、そのシーンでは血飛沫を出さないクセに、終盤の肥料撒き撒きではおぞましい光景が。
また、川に流れる大量の死体はシンドラーやライアンの再現だ。
単なるSFパニックと見せかけて、かつてのテロや大戦をイメージさせる手法は圧巻。


—これ必要?—
まさかの個人的に推しのティム・ロビンスが武闘派のキチガイを演じていて、これには笑ってしまった。
しかも彼は2mくらいの長身で、それが喚きながら暴れる。
瞳の演技最高峰のティムとかマジでクッソ怖くて笑う。

一応「奴らの下にもぐるんだよ」とヒントはくれてはいるが、やや冗長なシーン。
いや、好きな俳優なので個人的には「もっとやれ」感。


—〆—
・結末としてはシャマランの『パニック』に似ているような気もした。
勿論、今作はH.G.ウェルズの原作だし、1938年のラジオドラマ、1953年の映画のリメイクなわけだから、シャマランが模倣したのかもしれない。
ここまで話しといて決定的なオチは避けるが、序盤、レイチェルの指に棘が刺さった際のセリフ「勝手に抜けるから平気」がヒント。


・意外なことに今作はあまり評価されていないようだ。
知らない方も多いとか。残念。

・ちなみに、ラスト、レイチェルを前妻の実家に送り届けたシーン。
祖父母役にオリジナル版(1953年)の主人公2人がゲスト出演している。

・あと、ちょいちょい日本人ネタが出てくるのも楽しい。
公開当時、とあるインタビューでスピルバーグが答えていたという↓
A:なぜ日本人はトライポッドを倒せたのか?
S:日本人は昔から怪獣と戦っていたから。

まことしやかなネットで見かけたネタだが、なんか「らしい」感じがして、嘘ネタでも面白いからいいや感。
青の

青の