眠れないよ

フェイシズの眠れないよのレビュー・感想・評価

フェイシズ(1968年製作の映画)
4.3

階段のラストシーンやばすぎる。脚本の美しさにやば...って思わず声が出た。階段を降りて煙草を取り出して、引き返すのではなく部屋を一周回って戻ってくる。返す言葉がなくなって煙草を吸う。「煙草を投げて」と言って投げて渡してやる。二人とも一口でむせて咳き込む。座り込んだ階段で姿勢を正して、同じ向きに座り直す。このラストシーンに、二人はこれからも夫婦をやっていくのだろうと思わされる。カサヴェテス、本当にすごい。いつかくるかもしれないこんな夫婦生活のために煙草を吸っておこうかと思った。

ラスト、殴るのが夫ではなく妻であるところもとても好ましい。カサヴェテス作品の男たちは女性を見下しているような描写が多いけれど、それを嫌な感じで映してこちら側に不快を伝えたり、こういう大切な場面で均衡を取ろうとする脚本の作り方にカサヴェテスの本心がある気がする。

不倫相手の若い男がシーモア・カッセルだったの全然気づかなかった。それにカサヴェテスの作品は必ずと言っていいほど登場人物たちの歌う姿が映されるけれど、相変わらずその歌の意図が掴めなくて悔しい。そしてやっぱり、カサヴェテスの撮る悪ふざけをする大人たちは魅力的だ。踊ったり冗談を言い合う大人たちを観ているだけで満たされてしまう。その遊びの中に突如訪れる不穏。誰も本気で心からは笑っていない。それらの不安定な緊張があまりにも素晴らしい。そうしてちゃんと、一瞬、関係性が綻ぶ美しい時がある。

カサヴェテスの結婚三部作、本当にどれも好きだなあ。結婚をするかはわからないけれど、自分の中に抑えられない衝動のようなものが湧き上がる日が来たら、何度も何度もカサヴェテスの映画を観直そう。
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