眠れないよ

フォロウィング 25周年/HDレストア版の眠れないよのレビュー・感想・評価

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比較的単調でわかりやすい、もしくはありきたりな物語を時系列をほどくことで複雑に魅せているのがすごい。きっと時系列がそのままだったなら着地点が容易に想像できたはず。時系列をばら撒くことで行き着く先が見えなくなる、ノーランの美しさのひとつだなあ。

「みんな、箱を持っている」と言葉にしたところが特に好き。盗みに関して独自の美学を持っているコッブと対照的に、手当たり次第に燭台や本などを鞄に放り込んでゆくビルを「美学も何もない乱雑な男だな...」と思いながら見ていたけれど、その一言で彼は誰かの模倣をしたかったのだなと気づく。部屋に置かれたものによって人物像は読み取られる。コッブの一言でそれを知った彼は、盗んだものを自身の部屋に置くことで理想の人物像に近づこうとする。コッブを部屋に誘い込んだときに気づかれた失業証やタイプライター(作家ではなく作家志望と見透かされる)。何者にもなれていないと他者に思われること、それこそがビルの劣等感だ。空っぽな自分を見透かされないように部屋を模倣することでその劣等感を拭おうとする。他者を追い回し観察する行為も彼の他者に対する憧れや劣等感の表れだ。彼のその弱さにつけ込み、コッブはゴム手袋をくれてやる。ゴム手袋で手を着飾ることで彼はコッブのような泥棒になりきるが、着飾ったその泥棒という役をコッブに利用されて終わる。よくできた脚本だなあ。
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