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アルフィーのmikanmcsのレビュー・感想・評価

アルフィー(1966年製作の映画)
3.0
先日、マイケル・ケインの書いた人生指南書「我が人生」を読みました。著名人との交流エピソードが綺羅星のようなものばかりですし、率直な物言いに好感が持て、本はとても面白かったです。ご興味あれば、ぜひ。ちなみにマイケル・ケインは「作品を選ばない」人で、ゆえに名作も駄作もたくさんありますが、選ばない理由は「どんな作品にも何か良い点はある」「声がかかる限り、何にでも挑戦する」という人生へのポジティブな姿勢にあるそうです。労働者階級の出身で役者として売れるまですごく苦労したので「事前にセリフを完璧に覚える」「時間に決して遅れない」などの「規律」を己に課す偉大な常識人であり、完璧なプロフェッショナルです。(ちなみに「サー」マイケル・ケイン=爵位をお持ちです)

でマイケル・ケインの出世作である本作。バート・バカラックのタイトル曲はもちろん知ってましたが、本作をきちんとみたのは今回が初でした。時代は1966年=スウィンギン・ロンドンの真っ只中で、手当たり次第に女性に手を出す労働者階級の自己中プレイボーイ アルフィーのお話です。マイケル・ケインは若くてスリムで一張羅っぽいスーツが決まってます。

映画が始まるといきなり「第4の壁」を超えてアルフィーが観客に語りかけてきます。「ALFEE」というタイトルが出ますが、「これ以上ダルいオープニングはないから安心して!」というところなど、監督のルイス・ギルバートのフレッシュな感性を感じます。

なので映画はコメディ・タッチの軽いものかな~と思っていたら、冒頭から彼女に妊娠させ、生まれた子を見捨てるわ、女医や人妻や金持ち女に手を出しまくるわ、「メシ食わせろ」など男性至上主義で言いたい放題、最後には自分の部屋で人妻に堕胎させる、と「地獄めぐり」の様相です。笑いどころがないので、アルフィーが単なる自己中にしか見えず、今の目で見ると、かなり胸糞悪いですね。

ただ、アルフィーが代表する若者像って、60年代というより50年代の「怒れる若者たち」のイメージのように思いました。「大英帝国の閉鎖的な階級社会に反発し、週末の楽しみに生きがいを見出す労働者階級の若者たち」のイメージです(例えばアラン・シリトー「土曜の夜と日曜の朝」の主人公もアルフィーのように、人妻に手を出しますね。)アルフィーはあれこれ経験して最後に「俺も少しは真面目にやらんと。。」と反省しますけど、60年代中頃のスウィンギン・ロンドンだったら女性側の意識も変わっているでしょうし、(まだヒッピーはいないけど)ピルもフリーセックスもアリ、でしょう。アルフィーも反省なんか、多分しないのではないかなあ。ファッションや車などの風俗は新しくても、主人公の心情や行動は当時でも一昔前の感じではなかったかなあ、と思うのですがどうなんでしょうか。まあ一般観客の反発を恐れて脚本としては最後はモラルに着地した、ということかもしれませんけれど、反省などしないほうが振り切ってて新しかったのでは?と思いました。

(ちなみに冒頭の本で読んだのですが、マイケル・ケインさんは22歳で仲間の女優と結婚して子供が出来たのですが、仕事がなく貧乏で育てることが出来ず、妻の田舎の両親に預けて育ててもらい、そのことを本当に後悔しているそうです。アルフィーの冒頭の妊娠エピソードは実は彼自身の体験でもあったのですね。。ただし「私がアルフィーと似ているのはコックニー訛りで女性が好き、という点だけで、それ以外は私はアルフィーとは全く違った人間だ」と仰っています)
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