都部

サタデー・ナイト・フィーバーの都部のレビュー・感想・評価

5.0
70年代を代表する青春映画の一角であり、ニューシネマの残り香かおる現実の酷薄さと直面を描く暗黒青春劇で、自分を慰めていた仮初の幸せに傷付きながらも別れを告げて、他者と寄り添いながら生きていくことを選択するという若者ならではの葛藤とそこに伴う決意の愛おしさを詰め込んだ一作。

物語の語り部:トニーの堂々たる闊歩から始まる口火の切り方は洒脱で、そこで流れるBee Gees のStayin’ Aliveとの歌詞の共鳴を目にすると、自ずとこの物語が非常に優れたそれであることを観客は予見する。

作中で数多く使用される音楽の旋律と歌詞が、その場の物語の登場人物の心情や立場を雄弁に語る構図は大変好ましく、題材を考えれば必然的なそれだ。この歌詞によるシーンへの印象の先鋭化は物語の奥へ奥へと進み内省的なものとなっていく事で目覚しいものとなっていき、その集大成とも言える終盤のトニーの挙動に併せた音楽とのシナジーは理想的。

実に素晴らしい。

深刻な家庭環境や下品な友人達に囲まれながら先の見えない人生を生きるトニーの誠実さを描く本編は、切実な処世術として『ディスコでのダンス』に人生の救いを求める彼の祈りに基づくもので、誰もが抱える自分の人生の惨めさとの直面が劇的に語られる姿には涙してしまう。

それが偽りの幸せであると知りながらもそれに縋ることでしか生きてこられなかった彼が、自分の人生の空白を埋めてくれる大切な存在と出会うことで、ひとつの幼年期の終わりを迎える──この普遍的な時代性を帯びた物語が好きであるし、愛苦しさを感じずにはいられないトニーの等身大の性格が、若者にとってのその問題の大きさを知覚しやすい作りなのも良い。

トラボルタによる日々の空虚さに悩まされる人間像も魅力的だが、本作に登場する人間達は誰もが何かに救いを求める迷い人であることが示唆され、トニー個人の葛藤の物語ながら青春群像劇として端々に悲哀が感じられる丁寧な作りとなっている。

このままならない現実に対する彼の身近な人物の抗いとその逃避が、トニーの感情線を克明なものとし、納得のある行動を形作っているのだ。

本作の最大の魅力とも言えるダンスシーン。
これも文句なしだ。トニーのしなやかなでキレのある動きから放たれる躍動的な踊りは作中内外の見る人間を魅了するに足る存在感で、特に中盤のソロの映像的快楽の頂点を叩き出すそれは何度観ても胸が踊る。

こうした甘美な踊りが酷薄な現実に対するひと時の夢のように配置された青春のコントラストこそが、本作の作品としての味わいを濃厚なものとし、痛みを伴う現実的な青春映画の金字塔に成し得ているのだろう。
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