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インプリント ぼっけえ、きょうてえの消費者のレビュー・感想・評価

4.8
・ジャンル
時代劇ホラー/ゴア/ドラマ/文学/Disturbing Movie

・あらすじ
最愛の遊女、小桃を母国アメリカへと連れ帰る為に探し続けてきた記者クリストファー
その末に彼はとある島の遊郭へと辿り着き顔の歪んだ1人の女郎と出会う
そして彼女に小桃は命を断ったと告げられてしまう
悲しみと迎えに来てやれなかった罪悪感に苛まれ打ちひしがれる彼は眠るまで女郎の生涯について語るよう促した
凄惨な幼少期と彼女の小桃との親密な関係性、小桃を死に至らしめた惨劇…
全てを明かされても尚、彼はそこにまだ秘密があるように思えてならなかった
その疑念に応えて女郎は再び語り始める
すると隠された歪んだ真実が露わとなっていき…

・感想
世界のホラー映画監督13人を集めて作られたオムニバスシリーズ「マスターズ・オブ・ホラー」の一作として三池崇史監督が製作したエログロホラー作品
作中で古株の女郎を演じた岩井志麻子の小説「ぼっけえ、きょうてえ」が原作となっている
世界的にも有名な作品で以前から気になっておりやっと鑑賞

時代物らしいジメっとした暗い世界観と禁忌で埋め尽くされた内容、歪んだ愛や業を見透かす異形を通して描かれた狂気
どこを見ても極めて陰惨で醜いはずなのに不思議と美しさも漂う感じがとにかく見事な作品
小説原作らしい文学性を三池監督らしい極めて痛々しく生々しい表現と共に絶妙な形で映像化している様も素晴らしかった

本作で度々言及される“地獄”という概念
それを様々な人々がひしめき合う遊郭街を舞台にこの世こそが地獄なのだと示す示唆も秀逸という他ない
濡れ衣によって小桃に課された拷問と女郎の母の出産がダブって見えた点はその極致
生きるも地獄、死ぬるも地獄
その言葉を具現化した様で圧巻の一言

一応、ストーリー上では女郎の最後の告白こそが真実として示されている
しかし「女郎の話は嘘ばかり」という彼女の台詞もあってクリストファーの悲嘆と強情を宥めすかし自身が小桃の分まで地獄を引き受けようとしていた様にも受け取れ、その虚実入り乱れた悲劇性もまた女郎の小桃に対する悲恋にも見えてくる
こうした悲哀が端々から感じ取れるのが絵面の醜さに対してどこか美しく感じる所以なのかもしれない

また終盤のキーとなる女郎の姉の存在
これも単なる異形やシャム双生児的な存在として片付けられる物ではない
クリストファーの過去の業を見透かして突き付けていた点から感じたのは姉は言わば地上の閻魔の様な存在であり且つ人間の業や欲を象徴した怪異なのではないか?という事
姉が殺されてもクリストファーには地獄が付き纏い続けるという後味の悪い結末もそれをより強く印象付ける為だったのではないか?
そう捉えると終わりのない無間地獄的な世界観がもっと濃密に感じられる
獄中の幻影も女郎の最期に小桃の姿が重なっていたのも手伝って殺めた者の業を背負う、という示唆に思えたし最初から最後まで奥深い作品だった

三池監督と言えば「殺し屋1」、「オーディション」、「隣人13号」、「ホステル」など良い意味でトンチキな猟奇表現のイメージが強かっただけに想像を裏切られてかなり楽しめた
Jホラーよりも遥か昔のいわゆる怪奇映画的な要素もめちゃくちゃ好み
ほぼ全編英語なのも観ていく内に気にならなくなってくる
万人にオススメ出来る内容ではないけどゴア描写や異形という分かりやすくショッキングな部分で食わず嫌いするには勿体無い名作
とりあえずグロくしときゃ良いだろと思ってそうな園子温とかには三池監督の爪の垢を煎じて飲ませたい

惜しかった点は遊郭を舞台にしながらエロ要素がおっぱいや性的虐待の示唆、軽い濡れ場しか無かった事くらい?
でも話の本筋においてはあまり重要じゃないしそこまで気にはならなかった
今となっては木下ほうかがああいう役柄で出ていた事に何とも言えない気持ちにはなったけど…w
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