主役のエドワード・G・ロビンソンの特徴的な顔立ちに見覚えがあって、本作はやはり以前に観たことがあった。彼は「十戒」でモーゼに反旗を翻し、あっさり成敗されていて、どうも悪者イメージがある。
本作も「幻の女」の原作者コーネル・ウールリッチ(ウィリアム・アイリッシュ)の長編の映画化で、原作も読んでいる。主人公は千里眼という予知能力を”ギフト”されており、そのことに苦悩する。その予知能力に実はこうでしたといった特段のトリックは示されず、本当にスーパーナチュラルなまま終わる。これはウールリッチ作品では異色のテイスト。
ウールリッチの魅力は哀愁を帯びた文体で綴られるサスペンスであり、哀しい運命の巡り合わせというフィクションとはいえあくまで現実的なストーリー展開。本作のスーパーナチュラルは少しやり過ぎ感を覚え、私的には好みに合わなかった。
ただ、あらためて再見して、この映画化は悪くない気がした。必ずしも本人が望まないギフトにまつわる苦悩というのは、現代のスーパーヒーローものでもお約束のテーマ。ラストはウールリッチらしいテイストも出ている。
ちなみに「夜は千の眼を持つ(Night Has A Thousand Eyes)」という神秘的で詩的なタイトルは、”映画発祥のジャズ・スタンダード曲”としても有名になった。メロディを口ずさめるタイプの曲ではないのだけれど、ジャズ愛好家のサイトなどによると本作のパーティーシーンで少しだけ流れているそうだ。