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パーフェクト ワールドのtoriten45のレビュー・感想・評価

パーフェクト ワールド(1993年製作の映画)
4.5
ハロウィンをそう持ってくるか…。あー気づいたら涙が溢れていた…。カリカリしている時に観る。するとあら不思議、頭がスッキリして見知らぬ人にも挨拶したくなります。

ケビン・コスナーが演じる脱獄犯のブッチと、ブッチが逃亡中に誘拐した8歳の少年フィリップとの心の交流を描くクリント・イーストウッドの作品です。

恵まれない人生を歩んできたブッチ。どちらかというと転落人生を歩むワルですが、根はやさしく愛嬌もあり共感できるキャラなんですね。当時、人気絶頂だったケビン・コスナーがワルを演じるキャスティングが意外!だった記憶があります。

そしてテレビアニメ『出てこいキャスパー』('62〜'63)のお面と衣装を身に付けている姿が可愛らしい少年フィリップ。子役の演技の引き出し方がうまいなーって感心してしまいます。

物心ついたときには父親は家にいなかった共通点があるブッチと少年フィリップ。

少年フィリップは家庭の方針で我慢しないといけなかったあんなことこんなことを自由にさせてくれるブッチに心を寄せていきます。こんなお父さんがいたらなー、なんて思っていたのかもしれないですね…。

ブッチも幼少のころの自分をフィリップに重ね、アラスカにいるという実の父に思いを寄せます。

はたから見ると仲睦まじい親子。しかし結局は、逃亡犯と人質の関係。ブッチも父親代わりにはなり切れない。いつ終わりを迎えてもおかしくない不安定で脆そうな関係性をハラハラしながら見守っていくことになります。

加えてふたりが共に抱えているのがDVへのトラウマ。そして、このDVの扱いがストーリーの核となっていきます…。

大人による子供への暴力を目の当たりにした時の少年フィリップの反応に心は痛むのですが、それ以上に、怒りにスイッチが入ったブッチの抑えが利かなくなる暴走ぶりが怖い。悪でもないが善でもないブッチの微妙な心情の"揺れ”が作品に深みを与えます。

ブッチが絶対に許すことができない「一線」が子供へのDVなのです。

↓ここからネタバレ↓


イーストウッドの表現がとても巧みに感じたシーンについてです。

作品では、何度か大人が子供へ手を挙げるシーンがあって、そのたびにブッチからただならぬ緊張感が漂います。

とりわけ自宅へ招いてくれた農家の旦那に対するブッチのキレ方が一番怖かった。

最初はいたって和やか。居間にあるレコードプレーヤーで音楽を流しながらおばあちゃんとダンスなんかしたりするんですね。

ところが旦那が孫に手を挙げた瞬間にブッチの穏やかな雰囲気がサーって変わります。イーストウッドはここに不安を掻き立てるBGMではなく、ついさっきまで和やかだった時の音楽を再び流すのです。

流れる音楽は同じなのにガラッと場面の雰囲気が変わり、観る側の不安感を最大限に揺さぶります。…揺さぶられました。
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