ヒロ

精神(こころ)の声のヒロのレビュー・感想・評価

精神(こころ)の声(1995年製作の映画)
4.5
ソ連のタジキスタン内戦に派兵されるロシア人兵士を追ったドキュメンタリー。

第1話
定点カメラで耐えず映し続けられる川辺の木々と母なる大地ロシア。それに添えられるのはモーツァルト、メシアン、ベートーヴェン。動きのない画に意味を求める観客と意地でも与えないソクーロフの睨み合い。観客が痺れを切らす絶妙な頃合い、ベートーヴェンの交響曲第七番が爆上がる瞬間、画は大胆にも動き出す。無数の鳥が羽ばたき、遥か彼方での銃声、左端で燃え始める木々、画面を覆い尽くす煙靄霧、、、そしてその画は眠っている若き兵士の顔にディゾルブしていく。あれは青年の見る夢なのか、駒として消費され逝く未来の暗示なのか、ここからすべてが始まる。正直、導入が完璧すぎる。

第2話
まだ見ぬwarへの期待と不安、浮き足立つ兵士ではなく少年たちとともに目指すは駐屯地。小型機で飛び、そこからは戦車。灼熱の太陽があちこちに突き刺さる、暑いとにかく暑い、俺たちはどこへ連れて行かれるのか。

第3話
カメラは兵士たちと山へ見回りに。塹壕で駄弁って、昼メシ食って、一服して、ラジオでも聞くか。余りに手応えのない戦場。でも確実に近づく何か。雨の降らない落雷、はためくロシア国旗、荒れ狂う運河、どう変換してもポジティブが生成できないネガファーの応酬。誰もが予期していたように、確信犯的に、ソクーロフの手によってそれは投下される。そして傷だらけの天使は悪魔に運ばれて逝く。。。

第4話
任期を終え除隊する兵士を見送る残留組の喜びに隠れた虚しさ。駄弁ってメシ食って一服してラジオを聞く、いつもの退屈な一日が始まる。そして、それは突然やってくる。敵と味方の人間同士の友情も、共に育ってきた兄弟の絆も、恐怖を埋めるための情熱的な恋も、子を想う親の気持ちも、そこには何もない。血と泥と焦臭、あぁこれが戦争か。

第5話
戦場のメリークリスマスも終え、迎えた今年最後の日12月31日。ケーキにピロシキ、シャンペーン、悲しく響き渡る happy new year。兵士が眠りに落ちる頃、カメラはついに帰る、意地でも帰らなくては。かつて確かにそこにあった無数の魂の声を届けなければ。最期にラスコーリニコフはかく語りき「神なんていないさ、、、」。

このフィルムに刻印された青年たちは皆死んだそうだ。跡形も無く。戦争で。

《ソクーロフを発見する》
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