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これは映画ではないのSariのレビュー・感想・評価

これは映画ではない(2011年製作の映画)
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反体制的なプロパガンダ活動を行ったとして2009年に逮捕され、懲役6年と映画製作20年間禁止を言い渡されたイランの名匠ジャファル・パナヒ監督が、自宅軟禁中の生活を撮影したドキュメンタリー作品。

映像は、テヘランのとあるアパートメントの一室で始まる。失業中の男の日常かのように、軟禁中のパナヒ監督自身の一日を映しているが、語り口はあくまでユーモラス。
限られた空間と時間にも関わらず、見る者を飽きさせない様々な創意工夫に溢れている。ラース・フォン・トリアーの『ドッグヴィル』ばりに絨毯にテープを貼り、そこを舞台にして脚本を再現してみせたり、なぜかタイミングよく上の階の住人が吠えまくる犬を預けに来たり、パナヒが警察に連行された日のことをゴミ回収の青年が知っていたり。買っているペットの大きなカメレオンが部屋の床を徘徊し、パナヒの身体に乗り上げていったり。どこまでが偶然でどこまでが演出なのかが分からない。
テレビのニュースで、3.11東日本大地震の津波の映像を目の当たりにするパナヒ監督。

『これは映画ではない』というタイトルの趣旨は、20年間の映画製作禁止を申し渡されたパナヒ監督の、「映画でなければ何をつくっても違反にならないだろう」という持論のもとで、軟禁生活の中で脚本を読みながら構想中の映画を再現した痛烈なブラック・ユーモアが込められている。
 
パナヒ監督は完成した本作のデータを菓子箱に入れて知人に託し、密かに国外へ持ち出すことに成功。2011年カンヌ国際映画祭でプレミア上映されて絶賛され、数々の映画祭で高く評価されたという。
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